ガバナンス
基本的な考え方
当社グループは、人権の尊重が事業活動の基本であるとの考えのもと、「国際人権章典」「ビジネスと人権に関する指導原則」「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」「OECD責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針」などの国際的な規範や基準を支持・尊重しています。
当社グループはステークホルダーの人権を尊重した事業活動を行うことを目的として、「人権方針」を専門家との協議および経営会議の承認を経て制定しています。同方針では、人権に関する国際的な規範や基準を支持・尊重することを基本としつつ、遵守すべきことなどの基本事項、人権に与える負の影響の防止・低減と救済措置、役員・従業員教育の実施などの具体的な取り組みについて定めています。同方針は英語に翻訳し、国内外のすべてのステークホルダーがウェブサイトにて閲覧できるようにしています。
当社グループのグローバル行動規範における第8条「人権と多様性の尊重、機会平等」では、人権を尊重するとともに、取引先、お客様、役員・従業員、地域社会の多様性を尊重し、差別や報復、いやがらせは、どのような形・程度にせよ容認しないことを定めています。
また、環境・人権リスクに関する国内外の法令や要求事項を踏まえて、「人権方針」や「サプライヤーCSRガイドライン」といった既存規範の改定、環境・人権に関するデューディリジェンス規範の制定について、外部有識者を加えて検討しています。
業務・投資における人権配慮
当社グループは、事業を持続的に成長させていていくためには従業員や地域の皆様と相互理解に基づき良好な関係を構築することが不可欠であると考えます。事業所や関連施設を開設する際は、国や地域の慣習、宗教を含む文化的価値観などに配慮しています。
販売会社における人権配慮
販売会社では、従業員の安全や健康に配慮した職場環境の整備に取り組むとともに、人権侵害の行為を禁止しています。
マネジメント体制
当社は、サステナビリティ部門、人事部門、購買部門、管理部門などが中心となり、外部専門家のアドバイスも得ながら人権尊重の活動に取り組んでいます。また、2024年11月に代表執行役社長を委員長とする「人権委員会」を設置しました。同委員会は、年に3回程度開催し、人権に特化した主要事項に関して協議しており、重要事項に関しては取締役会へ報告し審議する体制としています。取締役会へ報告され審議された内容については、人権委員会委員から担当部門へ共有し、社内外における人権尊重の取り組みの改善につなげています。
加えて、ビジネスと人権におけるリスクを潜在的な影響が大きく、かつ緊急性の高い優先リスクの一つとして位置付け、内部統制委員会が管理する全社リスクに統合し、適切に管理しています。
情報開示
各国・地域における人権デューディリジェンスの報告義務や、サステナビリティ報告に関する国際基準に適切に対応するべく、防止・軽減措置の開示を含む情報開示の強化を検討し透明性を確保していきます。
戦略
当社グループは人権の尊重を各マテリアリティに落とし込んで全社的な取り組みとして推進しており、代表執行役社長が委員長を務めるサステナビリティ委員会および人権委員会にて各マテリアリティのKPIや進捗をモニタリングしています。
具体的には、「事業を通じた地域経済への貢献」「多様な人材が能力を発揮し、誇りとやりがいをもって働ける環境の構築」「持続可能なサプライチェーンの実現」などのマテリアリティで設定した中長期的な目標やKPIを通じて、従業員や取引先とともに人権リスクに対する感度を高め、実践的な対応を強化しています。これにより、企業活動の全体にわたる人権尊重の意識が浸透し、社会的責任を果たす基盤となっています。
リスクと機会
各国において、企業に対して人権の取り組みを求める法規の制定が進んでおり、サプライチェーン上の人権リスク対応の必要性が急速に高まっています。これら法規に対して適時・適切な対応や情報開示ができない場合は、法令違反のみならず、社会的信用の低下によりブランドイメージが毀損し、生産、開発、購買、営業などの事業活動にも影響を及ぼす可能性があると認識しています。
加えてヨーロッパを中心にバッテリーの製造過程におけるデューディリジェンスを法制化する動きが進行していることも考慮し、当社グループはグループの事業およびステークホルダーにとって優先的に対処すべき重要リスクを特定しています。自動車産業においてもより広範で複雑な事項への取り組みが求められるようになっています。
重要リスク
- 強制的な労働:処罰の脅威によって強制される労働や、自由意思で働く権利の侵害リスク。
- 紛争鉱物(錫、タンタル、タングステン、金)およびコバルト、マイカ(責任ある鉱物調達):紛争鉱物や責任ある鉱物調達に関連する児童労働や強制労働のリスク。
- 労働安全衛生(安全):劣悪な作業環境や危険な作業による負傷および疾病のリスク。
- 消費者の安全と知る権利:消費者の心身の健康を害する製品・サービスの提供や不当表示のリスク。
- 救済へアクセスする権利:効果的な救済を受けるための適切なプロセスへのアクセスが確保されないリスク。
- ハラスメント:パワーハラスメントやセクシャルハラスメントによる就業環境の悪化リスク。
- 環境・気候変動に関する人権問題:企業活動による環境破壊や地域住民の権利侵害リスク。
- 児童労働:法律で定められた就業最低年齢を下回る児童による労働のリスク。
- 先住民族・地域住民の権利:企業活動による先住民族や地域住民の人権侵害リスク。
リスク管理
環境・人権デューディリジェンス・プロセス
当社グループは、デューディリジェンスの仕組みを通じて事業活動が環境や人権に与える負の影響を特定し、その防止または軽減を図るよう取り組んでいます。また、デューディリジェンスの仕組みづくりを外部有識者も加え進めつつ、一部の取引先でデューディリジェンスを開始しています。
バリューチェーン上の重要リスクの特定・評価
バリューチェーン上の特に重要な人権リスクについて、外部専門家の協力を得ながら、特定と評価、そしてその防止・軽減策の検討を推進しています。人権リスクの特定と評価では、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンが公表しているガイドラインを用いてリスクマップを作成し、リスクカテゴリーごとに深刻性と発生可能性を評価し優先順位付けしました。
また、当社グループの従業員は当社グループが持続的に成長し、企業価値の向上を実現していくための重要なステークホルダーです。従業員の尊厳、基本的な権利を損なうことは、人材戦略を阻害するだけでなく、エンゲージメントの低下を誘引します。さらに、グループの製品や品質にも重大な悪影響をもたらし、お客様に危険を及ぼすおそれがあることから、当社グループは、労働条件、健康と安全などの従業員の人権侵害が、事業活動およびステークホルダーにとってインパクトの大きなリスク要因であると認識しています。
サプライチェーンにおける人権リスクの管理
当社グループは、取引先に対する人権侵害を発生させないことなどを含めた適正取引を行っており、取引価格や納期を各取引先と十分協議のうえ決定しています。加えて、「サプライヤーCSRガイドライン」に基づくマネジメントにより、取引先との双方向のコミュニケーションを図っています。なお、同ガイドラインについては、外部有識者を加え、サプライチェーン上でのデューディリジェンスを視野に入れた改定を検討しています。
2024年度よりAIを活用してサプライチェーン上の人権リスクや紛争鉱物などに関連するリスクの分析を開始しています。併せてEVバッテリーの原材料鉱物についてサプライチェーン上における人権リスクの予防・是正に向けた対応を進めていきます。
人権リスクが高いとされたサプライヤーへの監査および現地視察の重要性も認識しており、素材・原材料や精錬所レベルのTierNのサプライヤーに対する取り組みについて検討しています。
また、これらの防止・軽減措置について、今後モニタリングを実施予定です。
すべてのステークホルダーを対象とした是正・救済
当社グループが、人権に負の影響を与えた、あるいはこれに関与したことが明らかになった場合、社内外のしかるべき手続きを通じて、その救済に取り組みます。
是正・救済のため、複数の窓口設置を推進しています。すべての窓口で秘密保持と利用者の匿名性を担保しており、通報や相談を行った者が報復や不利益を受けることはありません。また、社内調査にとどまらず、取引先企業内での調査が必要と判断した場合は、取引先のコンプライアンス担当者と情報を共有・統制し、通報者探しや報復などの禁止行為について事前に合意したうえで連携して対応します。
なお、人権侵害やその疑いがあった場合の対応・是正措置の内容は、適時、当社ウェブサイトで開示するとともに、サステナビリティレポートに掲載する予定です。
グリーバンスメカニズム
バリューチェーン上のすべてのステークホルダーが通報可能なグリーバンスメカニズムの整備をめざし、当社は一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)に加盟しました。JaCERは「国連 ビジネスと人権に関する指導原則」に準拠して非司法的な苦情処理プラットフォームである「対話救済プラットフォーム」を提供し、専門的な立場から会員企業の苦情処理の支援・推進をめざす組織です。
従業員通報・相談窓口(グローバル)
従業員を対象とした相談窓口(ヘルプライン)を社内外に設置するとともに、多言語での対応が可能なグローバル内部通報窓口を設けています。
お取引先様相談窓口(日本)
当社調達部門の取引先を対象とした「お取引先様相談窓口」を設置しています。
お客様相談センター
お客様相談センターは、お客様からの声を直接承る窓口として全国のお客様からのお車の購入や取り扱いに関するお問い合わせ、ご意見・ご要望などあらゆるご相談に対応しています。お客様の期待を上回る親身な対応に努め、当社と末永くお付き合いいただくことをめざしています。
同センターでは、人権に関わる通報や相談も受け付けています。なお、お客様対応を行う従業員をカスタマーハラスメントから守り、安全に働ける職場環境を提供するという考えのもと、「カスタマーハラスメントに関する考え方」を策定しています。
指標および目標
| 中長期目標 |
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|---|---|
| 2024年度の実績 |
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2024年度の取り組み
人権アセスメント
人権デューディリジェンスの一環として、2021年度から人権アセスメント(※1)を国内外で実施しており、2024年度はミツビシ・モーターズ・フィリピンズ・コーポレーション(MMPC)において実施しました。アセスメントの実施にあたっては、さまざまな属性を持つ従業員に対して評価機関とともにマンツーマンでのインタビューを行うなど、従業員の関与のもとでインパクトを評価しています。なお、このアセスメントにおいては社外の評価機関を起用し、アセスメントの客観性および国際規範との整合性を確保しています。
これまでに実施したアセスメントの結果、事業および従業員の人権に重大なインパクトをもたらす侵害事項はありませんでしたが、評価機関からの指摘事項については対策案の立案と実行およびモニタリングを進めています。
また、2024年度よりAIを活用してサプライチェーン上の人権リスクや紛争鉱物などに関連するリスクの分析を開始しています。バリューチェーン全体を含めた人権リスクの特定と評価を行い、サプライチェーン上流におけるデューディリジェンスを開始しています。
- 賃金(給与記録、残業代、不当な賃金控除)、児童労働(15歳未満の雇用)、強制労働(移動や退職の自由)、差別(ハラスメント)、健康と安全(トレーニングや教育、避難防災)、救済措置(相談窓口)などの項目について、社外の評価機関との協議のうえでILO基準および産業界イニシアチブを参考に評価
防止・軽減措置の実施
過去に実施した人権アセスメントの結果に対しては、以下のプロセスを通じ、人権リスクの低減に取り組んでいます。
-
①アセスメント結果のまとめ
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②改善を要する事項とその実行部門や計画の確定
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③実施状況のモニタリング
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④人権委員会への報告
また、アセスメントを通じて指摘を受けた事項については、グループ内で水平展開し、グループ全体で人権リスクの低減を図ることを検討しています。今後はさらに広範囲の人権アセスメントを行い、それによって特定した重要リスクやそれに対する防止・軽減策の検討に加え、防止・軽減策のモニタリングと情報開示を推進する予定です。
従業員教育・研修
当社では、人事部門担当の執行役員が主導し、各地区人事部門が従業員の人権意識の向上に努めています。すべての役員・従業員が人権を尊重するために、階層別研修や新入社員研修をはじめとするさまざまな研修に人権尊重への理解を深めるためのプログラムを組み込んでいます。
2024年度は、新入社員、中堅社員、新任管理職(部長・課長クラス)、約760人を対象に研修を延べ730時間実施しました。また、経営幹部を対象にした研修も実施しました。加えて、「ビジネスと人権」に関するeラーニングを開設しました。
教育・研修実績(2024年度、三菱自動車)
| 対象 | 研修内容 | 受講者数 | 受講率 |
|---|---|---|---|
| 経営幹部 | 外部講師による「ビジネスと人権」に関する最新動向の共有など | 49人 | ― |
| 新任部長クラス | 職場の責任者として求められる社会的な人権課題に関する認識の向上、人権尊重に向けた情報共有、ハラスメント防止および発生時の対応など | 70人 | ― |
| 新任課長クラス | 人権に関する最近のトピック、ハラスメント防止および発生時の対応と管理職の役割など | 174人 | 100% |
| 中堅社員 (昇進者) |
人権に関する最近のトピック、業務と人権の関係など | 307人 | 100% |
| 新入社員 | 企業が人権について取り組む意味、人権全般に関する基礎知識など | 208人 | 100% |
| 希望者 | LGBTQに対する理解促進 | 485人 | ― |
| 全従業員 | LGBTQに対する理解促進(eラーニング) | 9,259人 | ― |
| ビジネスと人権(eラーニング) | 8,665人 | ― | |
| コンプライアンスオフィサー/ コードリーダー |
ビジネスと人権に関する情報のインプット | 156人 | ― |
「世界人権デー」に合わせた社長メッセージの発信
当社では、12月10日の「世界人権デー」に合わせて、代表執行役社長が全役員・従業員に向けて人権尊重に関するメッセージを毎年発信し、誠実な言動と意識向上の重要性について伝えるとともに、人権方針について啓発を行い、人権尊重の取り組みの重要性について周知しています。
外部イニシアチブへの参画
- 東京人権啓発企業連絡会
- 三菱人権啓発連絡会