「どんな道でも、必ず帰ってこられる」——『パジェロ』を育てた技術者たちの開発思想

パジェロ物語-開発編 中編

2026年10月06日

初代で「誰もが扱える四輪駆動車」という新しい価値を切り拓き、2代目ではスーパーセレクト4WDによって、あらゆる路面を一台で走れる性能を磨き上げた『パジェロ』。そして開発陣は次の時代に向けた新たな課題に直面します。
3代目で突然大きく変化を遂げたように見える構造も、実は先々の変化を見据えシームレスに繋がっていた“進化“だったのです。

守るために、変える。3代目は「突然の変化」ではなく、必然だった

環境性能や衝突安全性能への要求は年々高まり、SUVにも、より高い走行安定性が求められる中、1999年に登場した3代目『パジェロ』は、ラダーフレームからモノコック+ビルトインフレームへ、フロント独立懸架式+リヤリジッドアクスル式を基本としてきた足回りも四輪独立懸架式へと大きく姿を変えました。
『パジェロ』が目指してきたものが変わったわけではありません。オフロード性能を守りながら、より安全に、より快適に、より安定して走れるクルマにする。技術の進化によって、その実現方法が変わったのです。その大きな転機となったのが、3代目に先立って開発された『パジェロエボリューション』でした。
ダカールラリー参戦のためのホモロゲーションモデルとして開発された『パジェロエボリューション』は、フレーム構造を維持しながら四輪独立懸架式サスペンションを採用した意欲的なモデル。ところが、完成した試作車を評価した操縦安定性の担当者から返ってきたのは、厳しい言葉でした。
「このフレームでは、四輪独立懸架が全然機能しない、と言われたんです。サスペンションがどれだけ精密に動いても、土台になるフレームがねじれてしまったら、本来の性能は出せませんから」そこで長年『パジェロ』の開発に携わった西岡芳樹を含めた開発陣は、フレームそのものを徹底的に補強していきました。
「何十キロという補強を入れていきましたが、重量が増えれば、燃費も悪くなるし、クルマとしての価値も下がってしまいます。じゃあどうするのか。もっと剛性を高くして、しかも軽くつくる。それならフレームとボデーを一体としたビルトインフレームモノコックしかない、ということになったんです」

ラダーフレームで四輪独立懸架式サスペンションをを採用した『パジェロエボリューション』

四輪独立懸架の性能を引き出すためには、車体の剛性を高めたい。しかし、フレームを補強し続ければ重量が増える。高い剛性と軽量化を両立させるにはどうすればいいのか。その答えとして浮かび上がったのが、ビルトインフレームモノコック構造でした。
ビルトインフレームモノコック化を後押しした理由は、それだけではありませんでした。
当時、世界ではSUVの安全性に対する視線も厳しくなっていました。特にアメリカでは横転事故が社会的な問題となり、SUVの重心を下げることが大きな課題になっていました。
「アメリカではSUVの横転事故が大きな話題になっていました。重心を下げなければいけない。でも、ボディを低くしたらオフロード性能が落ちてしまいます。だったら、今までフレームの上にボディを載せていたものを一体化してしまえばいい。そうすれば、人もエンジンも全部下げられる。地上高はそのままで重心だけを下げられるんです」
悪路を走るためには、十分な最低地上高を確保しなければならない。一方、安全性や操縦安定性を高めるには、重心を下げたい。ここでも、一方を得るためにもう一方を諦めるのではなく、両方を成立させる方法が模索されました。
さらに、衝突安全性能への要求も高まっていました。
「当時は、フレーム構造よりもモノコックの方が衝突時の変形をコントロールしやすかったんです。だから操縦安定性も、耐転覆性も、衝突安全性も全部考えると、ビルトインフレームモノコックしかないという結論でした」
四輪独立懸架を生かすための剛性、軽量化、低重心化、そして衝突安全性。それぞれ別々に見える課題を突き詰めていくと、同じ答えにたどり着いたのです。
『パジェロ』をはじめ数々の三菱車を評価してきた布野洋も、当時、ビルトインフレームモノコックボディの試作車を評価した一人でした。
「最初の試作車は、正直まだ課題がありました。でも、ハンドリングはすごく良かった。2代目の後半には、『そろそろ性能をもう一段引き上げなければいけない』という空気がありましたから、構造を変えること自体には、あまり違和感はありませんでした」
外から見れば、3代目は『パジェロ』の常識を大きく変えたモデルでした。しかし、開発する側にとっては、すべてシームレスにつながっている。決してそれまでの『パジェロ』を否定する選択ではありませんでした。初代でフロント独立懸架を採用した時も、「オフロード性能が落ちるのではないか」と言われました。それでも、十分なストロークと強度を確保しながら、操縦安定性を高める道を選びました。3代目の、ビルトインフレームモノコック化も、その延長線上にあります。
西岡は、その考え方を一言で表します。
「大事なのは、何を採用するかじゃないんです。何を達成するかなんです」
フレームかモノコックか、リジッドアクスルか独立懸架か。それは目的を実現するための手段。オフロード性能を守りながら、もっと安全に、もっと安定して、もっと快適に走れるクルマにする。そのために必要なら、それまで積み重ねてきた構造さえ変えてきたのです。

四輪独立懸架を生かす高剛性、軽量化、低重心化、衝突安全性を満たしたビルトインフレームモノコックボディを採用

ラリーが育てた『パジェロ』極限の環境が、市販車を鍛えた

『パジェロ』の開発を語るうえで欠かせないのが、ダカールラリー(当時のパリ・ダカールラリー)をはじめとするモータースポーツへの挑戦です。
世界でもっとも過酷なモータースポーツの一つとされるダカールラリーで、『パジェロ』は数々の戦績を残してきました。
極限の環境にクルマを持ち込み、走らせ、そこで見つかった課題を次のクルマへ返していく。ラリーは、市販車を鍛えるためのもう一つの開発現場でもあったのです。
「ダカールラリーは砂漠を一直線に走るだけだと思われがちですが、実際はまったく違います。川を渡ることもあるし、岩場もある。十メートルくらいの落差がある砂丘もあります。ありとあらゆるオフロードの要素が詰まっているんです。だから、あそこで走り切れるということは、世界中の過酷な場所を走れるということなんですよ」(西岡)
路面状況が次々と変わる中を長距離にわたって走り続けるダカールラリーは、一つの性能だけが優れていれば走り切れるものではありません。
悪路を走破する力はもちろん、車体やサスペンションの耐久性、操縦安定性など、クルマ全体の力が試されます。「何があっても帰ってこられる」という考え方を、極限の環境で問い続ける場でもありました。市販車をベースに極限の環境へ挑み、そこで見えた弱点を改善する。そして、その知見を再び市販車へ戻していく。市販車とラリーカーの開発は、別々に進んでいたのではなく、互いに影響を与えながら『パジェロ』を鍛えていきました。ラリーで試し、市販車へ返す。その循環は、『パジェロ』の技術を一段ずつ引き上げていきました。
同時に、極限までクルマを走らせて弱点を見つけ出すという姿勢は、実車を使った試験にも通じています。「実車耐久試験一つとっても、『パジェロ』はかなり厳しい試験を実施しています。さまざまな国で使われるので、『どういう条件で壊れるのか』『どうすれば壊れないのか』というデータが開発に蓄積されていくんです」(布野)

ロールケージを組み込めばそのままラリーに出場できるほどの剛性を備えた3代目『パジェロ』

世界中で使われる『パジェロ』にとって、想定しなければならない環境は一つではありません。だからこそ、実際に走らせ、壊れるところまで確かめ、そこで得たデータを次の開発へつなげていく。その積み重ねが、『パジェロ』 を鍛え、その走破性と耐久性を磨き、「どんな道でも帰ってこられる」という開発思想を、実際のクルマの性能へと変えていったのです。

  • 【西岡 芳樹】
    2代目『パジェロ』の改良型から4代目まで一貫して開発にかかわる。合わせて、ラリー車用駆動系の開発、初代パジェロスポーツの立上げ、デリカD:5のディーゼル化、同ビッグマイナーチェンジのプロジェクト推進などを担当。

  • 【布野 洋】
    商品力評価担当。3、4代目パジェロの商品性評価に関わる。現在はモータースポーツ開発も担当。

2026年10月

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