3代目で新しい骨格を手に入れた『パジェロ』は、4代目でさらに熟成を重ねていきます。
外観は初代を思わせる力強いデザインへと回帰しましたが、中身は決して「原点回帰」ではありませんでした。3代目で大きく変えた車体やサスペンションを土台に、これまで培ってきた技術をさらに磨き上げる。それが4代目の開発でした。

目指したのは一つの完成形
機械を磨き続けた、その先へ4代目がたどり着いた『パジェロ』の完成形
長年『パジェロ』の開発に携わった西岡芳樹は、当時をこう振り返ります。
「4代目は、サスペンションをほとんどつくり直しました。乗り心地も良く、ハンドリングも良く、初期応答も良くする。そのために評価担当から厳しい意見をもらいながら、一つひとつ仕上げていきました」
サスペンションだけを変えるのではなく、それを受け止める車体側から見直す。3代目で四輪独立懸架と新しいボディ構造を手に入れたからこそ、4代目ではその性能をどこまで引き出せるかが問われました。
乗り心地を良くしたい。ハンドリングも良くしたい。ドライバーの操作に対する応答も良くしたい。ここでも、一つの性能を高めるために別の性能を犠牲にするのではなく、すべてを少しずつ高い次元へ引き上げていくという『
パジェロ』の開発姿勢は変わりませんでした。
そして4代目では、もう一つ大きな進化が加わります。電子制御技術の本格的な活用です。
その一つが、アクティブスタビリティ&トラクションコントロール(ASTC)とリヤデフロックの両立でした。
「それまでデフロックとスタビリティコントロールは、お互いに相性が良くありませんでした。でも4代目では、その制御をうまくまとめることで、強力なトラクションを得たり、ハンドリング性能を確保しながら必要な時だけブレーキを使ってトラクションを生み出せるようになり、オフロード性能もさらに引き上げることができました」
リヤのデフロックとASTCを両立してよりオフロード走破性を強化
それまでの『パジェロ』は、サスペンションや四輪駆動システム、デフロックなど、主に機械的な仕組みによって悪路を走破する力を磨いてきました。4代目では、そこに電子制御を組み合わせることで、機械制御だけでは難しかった領域へ踏み込んでいきます。
『パジェロ』をはじめ数々の三菱車を評価してきた布野洋は、実際に体感した時の驚きを覚えているといいます。
「面白いのは、デフロックよりも電子制御のトラクションコントロールの方が脱出性が高い場面もあることです。当時としては、かなり新しい世界でした。今乗っても、独立懸架の良さがよく出ていて、荒れた路面を少し速いペースで走るような場面では、非常に気持ちよく走れます」
電子制御が加わったからといって、それまで磨いてきた機構の役割が小さくなったわけではありません。むしろ、車体やサスペンション、四輪駆動システムという基本の機構がしっかりしているからこそ、電子制御による緻密な制御を生かすことができます。
そして、電子制御とは別のところにも、『パジェロ』らしさは残っていました。
西岡は、4代目を走らせた時の感覚をこう話します。
2H(後輪駆動)で走ると、やっぱりほっとするんですよ。重たいエンジンが前に出過ぎていなくて、荒れた路面を走ると、『やっぱりいいな』と思いますね」。
数値だけでは表せない、クルマの動きや運転した時の感覚。悪路で思い通りにクルマを操ることができる安心感も、歴代『パジェロ』が磨き続けてきた性能の一つでした
4代目は、初代から積み重ねてきた技術を、当時できるところまで磨き上げた一台でもありました。西岡は、当時の開発を振り返ります。
「当時としてできることは、本当に全部やったと思います。その後は電子制御がどんどん進化して、もっといろいろなことができる時代になりました。でも、しっかりした土台があるからこそ、電子制御も生きるんです。
布野も「『パジェロ』が提供する価値は変わっていません。車体がフレームなのかモノコックなのかは、お客様にとって本質ではない。乗って性能が良く、安心して走れることが大事なんです」と強調しました。
パジェロ』伝統のフロントミッドシップエンジンも健在
パジェロ』という名を受け継ぐということ技術だけでは受け継げないものがある
『パジェロ』は、世界170を超える国と地域で販売され、ダカールラリーでは12回の総合優勝を果たしました。しかし、長年その開発に携わってきた二人が語るのは、華々しい実績だけではありません。むしろ二人の言葉から伝わってくるのは、それだけ多くの人に愛されてきた『パジェロ』という名前を背負うことの重さです。
西岡には、海外の販売会社を訪れた時の忘れられない光景があります。
欧州へ行った時もそうでしたが、みんな「私たちの『パジェロ』」って言うんです。「私たちの『パジェロ』がこのカップホルダーで本当にいいのか」なんて、ものすごく真剣に言ってくれる。他のクルマではそんなことは言われません。それが本当にうれしかったですね」
「三菱自動車の『パジェロ』」ではなく、「私たちの『パジェロ』」
一つの装備についてさえ真剣に意見を交わすほど、世界各地の販売会社やユーザーにとって、『パジェロ』は特別な存在になっていました。
発売が近づいた新しい『パジェロ』について、布野は「『この名前に恥じないクルマにしなければいけない』と、みんな言っています」と名前を受け継ぐことへの責任を口にします。
『パジェロ』を取り巻く環境は、初代が誕生した1982年から大きく変わりました。クルマに求められる安全性能や環境性能は高まり、電子制御によってできることも飛躍的に増えています。それでも、『パジェロ』という名前を付ける以上、譲れないもの。それは悪路を走る力を持ちながら、より安全に、より快適に、より多くの人が安心して運転できるクルマにするという考え方。
それは、歴代の開発者たちから受け継がれてきたものでもあります。
『パジェロ』という名前が受け継いできたものは、技術だけではありません。
初代から積み重ねてきた技術の先に、長い時間をかけて人々の信頼が積み重なり、それが『パジェロ』という名前の重さになっていったのです。

歴代『パジェロ』の開発思想は新型『パジェロ』に引き継がれている
そして、その原点にあるのは、歴代の開発者たちが守り続けてきた一つの考え方です。
「どんな道でも、必ず帰ってこられるクルマであること」
時代が変われば、そのために必要な技術も変わります。
それでも、目指すものは変わらない。その約束を次の時代へつないでいくこと。それが、『パジェロ』という名前を受け継ぐということなのです。
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【西岡 芳樹】
2代目『パジェロ』の改良型から4代目まで一貫して開発にかかわる。合わせて、ラリー車用駆動系の開発、初代パジェロスポーツの立上げ、デリカD:5のディーゼル化、同ビッグマイナーチェンジのプロジェクト推進などを担当。
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【布野 洋】
商品力評価担当。3、4代目パジェロの商品性評価に関わる。現在はモータースポーツ開発も担当。
2026年10月
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「どんな道でも、必ず帰ってこられる」
——『パジェロ』を育てた技術者たちの開発思想

