ラリードライバー
増岡浩
『パジェロ』が築いた技術と哲学は、いま『トライトン』へと受け継がれています。アジアクロスカントリーラリー(AXCR)を舞台に高められる信頼性と、アクティブヨーコントロール(AYC)とスーパーセレクト4WD-Ⅱ(SS4-Ⅱ)の融合が生み出す新たな制御により、誰もが扱える“対話する走り”が、安全・安心・快適を享受できる四輪駆動の未来を拓きます。
『トライトン』が挑むAXCR、その性能の源は高い耐久性と優れたハンドリング性能
ダカールラリーで鍛え上げた四輪駆動技術は、今、新たな舞台――AXCRへと受け継がれています。その挑戦を担っているのが、『トライトン』です。AXCRは、ジャングル地帯や赤土の路面、狭く険しい林道などを舞台とする、タイを中心とした東南アジアを舞台に繰り広げられるクロスカントリーラリーです。「ジャングルを走るAXCRでは、赤土の滑りやすい路面や、木の間をすり抜けるような狭いルートもあり、バックミラーをたたまなければ通れないような場所もあります」と、増岡はその厳しさを語ります。
東南アジアの複雑で変化に富んだ路面を走破するには、単なるパワーや車高の高さだけではなく、刻々と変化する状況に対応した駆動力、制動力、旋回性を発揮する繊細な四輪制御による優れたハンドリング性能が求められます。
ラリーへの参戦を休止している間も三菱自動車は四輪制御技術を磨き続け、SS4-Ⅱをさらに進化。AXCRでもその真価を発揮し、『トライトン』で参戦1年目の2022年に優勝を果たすという快挙を達成しました。
参戦1年目で総合優勝を果たしたAXCR2022
VCUを排し、トルク感応式LSDとしたフルタイム4WDでも微細に制御されているため、悪路走破性が高く、「まるでロックされているかのような走破力があって、どんな道でもぐいぐい進めるんです」と増岡は胸を張ります。
「スピードを出してすぐブレーキを踏み、ターンしてまた加速する。ラリーではその繰り返しです。だからこそ、アクセル操作に対するエンジンレスポンスの良さ、ワイドレンジでの扱いやすさ、そして低速から高速までスムーズにつながる特性こそが、タイムを縮める鍵だと考えています。私は『パワーを下げてもよいので、もっと広い回転域を使いたい』とお願いしました。それに応えてくれるエンジンが『トライトン』には載っています」
AXCRのように連日数百キロを走破する競技では、車両の安定性が重要であり、それがドライバーの疲労軽減につながる。
「四輪すべてがしっかりと路面を捉えし、滑らかな加速に繋がる。その制御があるから、ドライバーは安心してアクセルを踏み込めます」と、増岡は信頼を寄せています。
ドライブモードに息づく“増岡ドライビング”、それは誰にでも扱える性能へ
AXCRの競技車には採用されていないものの、市販車にはAYCが搭載されています。AYCが前輪の左右トルク配分を最適に制御することで、狭い道でも車両が無理なく旋回でき、スリップしそうな場面でも姿勢を保ったまま加速できます。SS4-Ⅱとの組み合わせで、さらなる安全性能と意のままの走りを提供します。
その性能を誰にでも簡単に引きだすことを可能にしたのが『トライトン』に搭載された多彩なドライブモードです。単に走行モードを切り替えるだけではなく、ドライバーの意図をくみ取り、さまざまな路面や環境に最適な制御を施すための知恵の結晶です。ノーマルモードはもちろん、スノー、グラベル、マッド、ロックなど、それぞれの路面特性に合わせたセッティングには、ラリーで培った知見と、ドライバーとクルマの“対話”を重んじてきた増岡の哲学が込められています。
VCUを排し、トルク感応式となったセンターデフを採用したSS4-ⅡにAYCとドライブモードを搭載
「滑りやすい雪道では、アクセル操作に対して出力を抑えることでタイヤの空転を防ぎます。一方で、ぬかるんだ道では、トラクションを確保するためにトルクを効果的に配分し、脱出性能を高めます。どのような状況でもドライバーの不安を最小限に抑え、安全で力強い走行をサポートするというのがドライブモードに込めた私たちの思いです」
さらに、直感的に扱えるインターフェースも重視。どのモードを選べばよいか、どのような路面に適しているかがイメージ画像で視覚的に理解できるよう設計されており、運転に慣れていない方でも迷うことなく操作できます。
直感的に扱える7つのドライブモードを搭載して、あらゆる路面で安全・安心を実現
“プロ仕様”ではなく、“誰もが安心して走れる4WD”へ
ラリーにおいては極限状態でのパフォーマンスが求められます。だからこそ、走行性能はもちろん、車両そのものの信頼性が問われます。
「私たちはラリーを“究極のテストフィールド”と捉えており、ドライバーだけでなく、エンジニアやメカニックなどチーム全体が現地で得た知見を、市販車の開発にフィードバックしています。『トライトン』には長年のラリー経験で培われたノウハウや技術が凝縮されており、非常に完成度の高いクルマに仕上がっていると自負しています」
AXCRで2度目の総合優勝を達成した増岡総監督率いるチーム三菱ラリーアートの『トライトン』
三菱自動車にとってクルマはただの移動手段ではなく、冒険の可能性を広げ、人生の楽しさに寄り添う存在であり、「極限で鍛え、日常へ届ける」という哲学を守り続けています。
「これからも、三菱の四輪駆動車が世界中のあらゆる場所で、人々の信頼に応え、走る喜びを届けられる存在であり続けるよう、四輪制御技術を磨き続けていきたいと考えています」と増岡は力を込めます。現在、三菱自動車には5〜6種類の四輪駆動システムが存在します。『トライトン』のような高い走破性を持つモデルもあれば、『アウトランダーPHEV』のように電動モーターを活用しながら滑らかな制御を実現するモデルもあります。
これからの四輪駆動車には、電動化や環境対応といった新しい課題が加わっていますが、「走る楽しさ」と「信頼できる走破性」という本質は変わりません。どんな時代であっても、そしてどんな道であっても、クルマと人が一体となって進める。そのために、三菱自動車の四輪制御技術は、今この瞬間も進化し続けています。
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【増岡 浩】
ラリードライバー。世界一過酷なモータースポーツ「パリ・ダカールラリー」において、2002年・2003年総合優勝。また、米国コロラド州で行われる「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」にEVレーシングカーで出場し、2012年・2013年はEVクラス2位入賞。2014年6月に開催された同レースでは、EV改造クラス2位(総合3位)の好成績を収め、三菱自動車チームの1-2フィニッシュに貢献した。現在はAXCRへ参戦する「チーム三菱ラリーアート」総監督に就任。2022年・2025年総合優勝のチームを率いる。
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2025年10月