『トライトン』とAXCR、20年越しの開発DNAストーリー
ピックアップトラックが背負うもの
約20年ぶりにゼロからつくり直されたフレームは、幾度もの試作と亀裂の発生を乗り越えて2023年に登場した新型『トライトン』*の土台となりました。その車両は、アップダウンの激しい山岳地帯や狭く険しい密林地帯、スコールによる泥濘路や川渡りなど、東南アジア特有の高温・多湿な気候を走るアジアクロスカントリーラリー(AXCR)へと挑みます。2024年、エースのチャヤポン・ヨーター/ピーラポン・ソムバットウォン組の悔しいリタイアを経て、2025年についに頂点へ――。その歩みをたどると、量産開発とラリーという二つの現場をつなぐ、三菱自動車の開発DNAが見えてきます。(後編はこちら)
- 『トライトン』は一部の国・地域では『L200』として販売
2023年、新フレームを搭載した『トライトン』
ノウハウがまったくない中、始まったフレームの開発
ピックアップトラックというクルマをご存じでしょうか。荷台を備えたこの一台は、建設現場や農園、鉱山などで資材や道具を運び、世界の産業を支えてきました。頑丈な車体、悪路を踏破する走破性、重い荷物やトレーラーをけん引する力。商用車として求められる性能は、極めて過酷です。
一方で、週末には家族を乗せてキャンプ場へ向かい、雪道を越えて帰省する日常の足にもなります。荷台に工具を積む日もあれば、後部座席に子供を乗せる日もある。ワークホースとしての堅牢性と、暮らしの相棒としての快適性や居住性。どちらも高い次元で満たしながら、どんな道でも、どんな天候でも、人や荷物を確実に目的地まで届けることが求められます。その思想は、『パジェロ』をはじめとするSUVで三菱自動車が長年追い求めてきたクルマづくりとも重なります。1978年に発売された『フォルテ』から始まった三菱自動車のピックアップトラックは世界約150カ国で585万台以上を販売してきました。なかでも『トライトン』は三菱自動車を代表する世界戦略車です。
その歴史を次の時代へつなぐため、プロジェクトチームは大きな決断を下しました。荷台と客室を支えるはしご状の「ラダーフレーム」を、約20年ぶりにゼロから刷新することを決めたのです。
先代のフレーム断面(白)と、新型の断面(黒)
プロジェクト開発マネジメント部で全体を統括した佐藤英貴は、こう振り返ります。
「先代のフレームを使って、これ以上高度な安全性能を確保したり、剛性を高めたりすることは難しいと分かっていました。ちょうどプラットフォームを一新するタイミングでもあったので、エンジンも刷新するなど、ほぼすべてを新規に起こすプロジェクトになりました」
しかし、約20年ぶりの全面刷新とあって、当時のフレーム開発を知る技術者は社内に残っていませんでした。CAE解析を重ねてつくり上げた最初の試作フレームも、走行試験では「クルマとして成立しない」と評されるほどの状態からスタートします。そこから断面形状を見直し、材料を変え、亀裂が入る箇所を一つずつ潰していく地道な改良を重ねました。
完成した新型フレームは、断面積を従来比65%拡大し、曲げ剛性を60%、ねじり剛性を40%向上。それでいて、高強度・軽量鋼板の使用量を従来比約50%増やすことで、重量増は最小限に抑えています。
さらに、5枚重ねが当たり前だったリヤのリーフスプリングを3枚へ減らすという挑戦にも踏み切りました。摩擦抵抗の減少による乗り心地の向上と1台あたり約13kgの軽量化を実現。エンジンも新たに開発し、150kWの最高出力を発揮します。
「2ステージターボを採用することで、低速から中高速までスムーズに、ドライバーのフィーリングに合った加速を実現しています。小さいターボと大きいターボ、それぞれの特性をバランスよく生かしています」
4WDシステムには『パジェロ』譲りのスーパーセレクト4WD-IIを採用し、S-AWC(Super-All Wheel Control)をフレーム車として初めて組み合わせました。
「たとえば日本のお客様が冬に山へ遊びに行くと、日なたは舗装路でも、日陰に入った瞬間に雪道になることがあります。4H(フルタイム4WD)を選択していれば、そうした時でも慌てる必要はありません。システムが自動的に路面状況に応じた駆動力を配分してくれます」
佐藤がもう一つ重視したのが、ドライバーの疲労をいかに軽減するか。目指したのは、長距離を走っても疲れにくく、目的地まで快適に走り続けられるクルマです。150cmほどの小柄な方から体格の大きな方まで、世界中のさまざまな体格のドライバーが同じように運転しやすいよう、シートの調整範囲やフード先端の見え方など細部にまでこだわりました。
2023年7月26日、新型『トライトン』はタイ・バンコクで世界初披露されます。約9年ぶりのフルモデルチェンジとなった新モデルは、同年12月に日本仕様が発表され、2024年2月、12年ぶりに日本市場へ再投入されました。さらに2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤーでは、「デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞します。
しかし、この新型『トライトン』に待っていた舞台は、市販車市場だけではありませんでした。発売からわずか数週間後、そのままAXCRへと投入されることになるのです。
市販車の基本性能はそのままラリーカーに引き継がれる
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【佐藤英貴】
フレーム車全般の車両開発全体を統括。
2018年より『トライトン』を担当し、現在はCVE(チーフヴィークルエンジニア)としてグローバル向けピックアップトラックの商品開発をリードしている。
