新世代の電動車開発物語

“電気の走りにこだわる――三菱自動車が描いた電動車開発の物語 “電気の走りにこだわる――三菱自動車が描いた電動車開発の物語

三菱自動車は、世界初の量産EV『アイ・ミーブ』を生み出したパイオニア。その経験を活かして2013年に誕生したのが、モーター駆動ならではの心地よい走りと、電池残量を気にせず走れる新世代の電動車『アウトランダーPHEV』です。エンジンを持ちながらも「電動ドライブを主役にする」というこだわりを貫き、三菱自動車らしいプラグインハイブリッドEV (PHEV)として誕生しました。
現在、自動車業界は100年に一度といわれる変革期を迎えていますが、EVシフトが世界的にやや停滞する一方で、ハイブリッド車(HEV)の価値が再評価されており、特にPHEVが脚光を浴びています。
そうした中、三菱自動車は新型『アウトランダーPHEV』を世界市場に投入。2025年春の欧州再投入を見据えて新しいバッテリーをゼロから開発し直し、チーム一丸となって改良を重ねた結果、高速走行時の力強い加速が求められるアウトバーンをはじめ、快適な乗り味にも厳しい欧州市場において、その性能は高く評価されました。さらに、三菱自動車初のストロングHEV『エクスパンダーHEV』、その技術を進化させた『エクスフォースHEV』も、当社の主要市場であるASEAN地域、とりわけタイ市場で存在感を示しています。
電動化を進める三菱自動車が生み出した、『アウトランダーPHEV』『エクスパンダーHEV』『エクスフォースHEV』――その開発には、どのようなこだわりが込められていたのでしょうか。

1. EV起点の思想と、連携で磨く技術――三菱自動車が貫いたPHEV開発の哲学

世界で初めて量産型EV『アイ・ミーブ』を開発・販売した当時の三菱自動車の主力車種は『パジェロ』や『アウトランダー』などのSUV。EVの可能性を強く感じてはいたものの、当時の車載用リチウムイオンバッテリーは高価で大きく、SUVには不向きでした。
そこで開発チームが新たな電動車として検討したのがPHEVでした。PHEVは、エンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッドシステムに、外部から充電できる大容量バッテリーを備えたシステムです。通常のHEVに比べて電気だけで走れる距離が長く、排ガス低減と燃費向上が可能になります。ただ、エンジンとモーターの両方を搭載するため、システムはどうしても大きく重くなりがちで、バッテリー容量を小さくするのが一般的でした。そのため、電動ドライブによる走行は短く、電池が切れた後はエンジンが駆動の主役となり、モーターは主に発進や低速走行の補助、減速時の回生ブレーキに用いられる程度でした。
しかし、三菱自動車はPHEVにおいても電動ドライブによる走行にこだわりました。EVならではの力強くスムーズな加速や静粛性が、気持ちの良いドライビングを生み出すことを誰よりも理解していたからです。とはいえ軽自動車規格『アイ・ミーブ』で開発した小型モーターでは、大きなSUVを駆動することはできませんでした。そこで、前後にモーターを配置して駆動させ、さらにPHEV用に改良した大容量駆動用バッテリーを搭載することで、エンジンとEVの利点を両立できるSUVタイプを開発することに決定しました。4WD化することで、『パジェロ』で培った三菱自動車らしい四輪制御を実現すれば、これまでにないSUVタイプのPHEVを開発することが可能です。

世界初の量産型EV『i-MiEV(アイ・ミーブ)』とSUV型プラグインハイブリットEV『アウトランダーPHEV』

初代『アウトランダーPHEV』や『エクリプス クロスPHEV』の開発を担当し、2024年発売の『アウトランダーPHEV』改良型でも開発統括を務めた、HEV/PHEV開発推進のリーダーである上平真はこう語ります。
「2013年に発売された初代から『アウトランダーPHEV』にはトランスミッションがありません。モーター駆動を前提に設計されているからです。三菱自動車のPHEVは“EVにエンジンを載せる”発想でつくられているので、あくまでもバッテリーとモーターが主役。エンジンは発電や高速走行時の補助にとどまります」
こうした設計思想は「静かで滑らか、ドライバーの意思に応える一体感のある走行フィール」を実現し、「三菱自動車らしいPHEV」の核となりました。初代『アウトランダーPHEV』は快適性を、続く『エクリプス クロスPHEV』は快適性に加えてスポーティーさを加えた結果、乗り味は欧州で高く評価されました。
2021年の2代目『アウトランダーPHEV』では、さらに力強い走りとS-AWCによる高い走行性能を実現しましたが、新たな課題も浮かび上がりました。
モーター性能に電池が追いつかず、欧州では本来の実力を発揮しきれなかったのです。欧州の速度無制限区間のあるアウトバーン(ドイツの高速道路)では急加速と急減速を繰り返す場面が多く、バッテリー内部に熱がこもり、EV走行やモーター性能が制限されるなど、本来の持ち味を十分に発揮できないことがあったのです。
上平は短期開発であるが、開発チームと共にバッテリーのエネルギーや熱マネジメントを根本から見直すことにしました。プロジェクト推進担当の谷本隆も当時をこう語ります。
「実際にアウトバーンを走ると、モーター性能をどのような走行シーンでも常に発揮できるバッテリーが必要であることを痛感しました」

欧州の高速道路では本来の持ち味を十分に発揮できない

2. PHEV専用バッテリーの開発――欧州アウトバーンに耐える性能を目指して

EV電池性能設計を担当した横辻北斗は、PHEVの難しさを次のように語ります。
「限られた容量の電池から大きな出力を瞬時に引き出す必要があり、その際に発生する熱をどう管理するかが最大の課題です」
従来はEV用バッテリーをアライアンスで共用していましたが、PHEVには出力・熱・容量の三要素すべてにおいてEVとは異なる性能が求められます。それを満たすためには独自開発が不可欠でした。そこで材料から構造まで見直し、新たなサプライヤーと協力して内部抵抗の小さい素材を採用しました。
特に革新となったのが冷却方式です。従来の「モジュール側面冷却」では、セル中央の熱を外側に移すため効率が限られていました。そこで開発陣は「セル底面を直接冷やす」という発想へ転換。わずか10mmの隙間にアルミ製の冷却プレートを設置し、蛇行する流路を設けて効率的に冷媒を循環させました。冷媒にはエアコン用冷媒を流用し、従来比で1.5~2倍の効率を実現。常に最適な温度を保つことで、バッテリーの性能を最大限に引き出すことが可能になりました。
さらに電池制御アルゴリズムも刷新し、PHEVのバッテリーの求められるきめ細かな制御を実現。バッテリーケースの底板(プレート部)と外郭構造を一体化して成形することで、強度とシール性も確保しました。
PHEVにとってバッテリーは“心臓”とも言える重要なパーツです。今回の新開発バッテリーの搭載は、まさに「心臓移植」に等しい大改革でした。

PHEV専用に開発し、バッテリーの性能を最大限引き出すことが可能に

3. 「走る」「曲がる」「止まる」をいかに滑らかにするか――PHEVの真価は質感に宿る

「うちのPHEVはEV走行でもHEV走行でも性能が変わりません。このようなPHEVはなかなか世の中にありませんから」と自信を見せる上平は続けます。
「それにPHEVの性能は単なる足し算ではなく、バッテリー・モーター・エンジン・制御のすべてを調和させて、さらにS-AWCによる曲がる技術や、重い車体を自在にコントロールするブレーキ性能までも緻密に調律してこそ、三菱自動車の質感を備えた電動車になるのです」
谷本も「加速中にエンジン駆動へ切り替わる瞬間も、ドライバーに違和感を与えてはなりません。その調整が本当に難しかった」と語ります。
三菱自動車が重視したのは、欧州プレミアムブランドと出力で競うことではなく、“どこよりも滑らかで上質な乗り味”です。
「当社のPHEVは常にスムーズであることが条件です。アクセル操作に即応し、変速ショックを排除して加速がリニアに立ち上がる――飛行機が離陸するような一貫した加速感を理想としました」(谷本)
走行中にエンジン駆動へ切り替える際にも、緻密な制御によって違和感を最小化。静かで力強く、誰もが安心して扱える――それこそ、三菱自動車が定義する「質感」です。

“EVらしさ”を表す指標の一つと考えるのが加速感

4. なぜ三菱自動車はPHEVを短期間で刷新できたのか――方向性とチームの結束

「マイナーチェンジでのシステム変更でしたから、開発スケジュールは非常に厳しかった。最短で手戻りすることなく開発を進めるには、 “どこを目指すのか”を全員で共有することが最も重要でした」と上平。方向性を定めたうえで、組織の壁を越えたいくつものクロスファンクションチームを結成し、縦横の連携を重ねました。開発のターゲットはシンプルに、「バッテリー刷新によりモーター性能を引き出し、制御と組み合わせて、信頼性の高いシステムを造り快適性を追求する」こと。全員が「自分なら」「家族なら」「お客様」ならどう感じるかという視点を持ち寄り、共通の基準に立ち返りながら開発を進めました。
こうした文化は、上平が開発を担当した『ランサーエボリューションⅩ』で培われたものです。「部署の垣根を超える」「プロジェクトの皆が同じ目標を共有して密に連携する」「即決・即断する」というマインドセットを基本とします。個々のパーツは性能やコストに置いて特筆すべきものではないとしても、全体バランスを最適化するために徹底的に突き詰めることで高性能を狙う――その姿勢が受け継がれています。
「安全・安心に目的地につき無事に帰ってこられること。そして、信頼性が高く、所有していることを誇りに思えるクルマをつくる」という思想のもとに歩調を揃えた結果、新しい『アウトランダーPHEV』は世界に誇れる一台となりました。

  • 【上平真】
    HEV/PHEV開発統括として開発をリード。過去に担当した車両は「アウトランダーPHEV」「エクリプス クロスPHEV」「エクスパンダーHEV」「エクスフォースHEV」「ランサーエボリューションⅩ」等

  • 【谷本隆】
    車両開発推進の取りまとめ担当として、目標達成に向けた円滑なプロジェクト運営や、日々発生する課題解決の推進、PHEVシステムの開発促進を担当。

  • 【横辻 北斗】
    電池の性能設計を担当。電池サプライヤーで材料開発を行っていたが、先代『アウトランダーPHEV』に感銘を受け2015年に転職を決意。入社以来、電池の制御および性能領域などを担当。

2025年12月