探求し続ける職人から生まれる一台

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<Part2>探求し続ける職人から生まれる一台

三菱自動車のクルマはどのようにして造られているのでしょうか。そこには調査、企画、デザイン、設計、試作、テスト、購買、生産、物流、販売という一連の工程があり、それぞれを高い技術力を持ったプロフェッショナルが担っています。本シリーズでは 各職場で働く人々を紹介していきます。今回は、開発部門の試作部で働く社員を紹介するシリーズのPart2です。(Part1はこちら

板金加工に携わるそれぞれの職人の原点

山本さんの師匠にあたる梶さんは、1981年入社で名古屋製作所(当時)に配属。技能訓練生を経て、翌年、試作部の所属となって以降、一貫して板金加工を担当する。

梶さん「私は、特にクルマに興味があったわけではなかったのですが、生まれが名古屋で、父親が三菱自動車に勤めていたので、勧められて私も入社しました。大きい声では言えませんが、今でもクルマについては全然わからないことが多いです。たまたま板金という作業が私に合っていたという感じで、面白いなと思いながら、もう何十年と続けています」

「もともと昔の職場には、板金班で30人から40人の作業員がいて2班ありました。板金が試作部の主流で、試作といえば板金が花形という時代でした。新人は最初に板金に配属されるのが原則となっていて、ある程度何年間かやってから、各班に回るというパターンでしたが、私の場合はたまたま板金一筋ということになったんです」

山本さんはどうだったか。

「私は工業高校の自動車科の卒業だったので、自動車業界に入りたいと思っていました。私が18歳の頃は、『パジェロ』が全盛期で、ラリーで活躍していた篠塚建次郎さんに憧れていました。その頃は、クルマの開発に携わりたい、もしくはテストドライバーになりたいと思っていました」

『パジェロ』

山本さんは、入社後の技能訓練生時代にその後の道が決まる。

「技能訓練生は巡回といって、いろんな部署の仕事を経験します。たまたま、試作部で鉄板を叩いて伸ばすという作業をやった時に、指導員の方から『手先が器用だね』と言われて試作部にスカウトされました。もともと何かを作ることがすごく好きだったんですが、その時に褒められたことが忘れられませんでした。作業が終わったときの達成感もあり、地味な部署だけど、いいなと思ったんですね」。

山本さんは、訓練生から試作部板金班に配属され板金を担当。2002年、ボデー班に異動し、板金・溶接加工を手掛けた後、04年に品質管理班に異動し車両の出荷前検査を担当。20年からはボデー班に戻り、現場監督を務めながら現場の作業もこなしている。

試行錯誤の先にある、一人前の技術

梶さんと山本さんとは15歳ほどの年齢差があるが、職人気質の現場の雰囲気は同じであったようだ。梶さんが三菱自動車の板金の歴史を振り返る。まず修業時代について――。

「基本的な溶接の仕方や、はんだごての持ち方、ハサミの持ち方など基本は先輩が教えてくれますが、そこから先は、昔は『見て盗め』という時代でした。そこで見ていろと言われて、1日ただ見ているだけのこともありました。いろいろな人を見て、最初はこういうやり方がいいかなと思った人のやり方を、まず真似てみる。真似して、もっと何年かやっていくと、今度は自分なりのオリジナルのやり方に応用してみるということでした」

「まだ若い頃、先輩からこの部品を作ってみろと図面を出されました。わからなくても1人で考えて作ってみろと。最初は途方にくれましたが、とにかく1人で考えて試行錯誤しましたね。紙に展開図を描き、ハサミで切って組み立ててみて、図面通りの形になりそうだなというのを確かめる。小さな部品で形状がすごく複雑だったのですが、1週間かけて、なんとか形になった。モノが出来上がったときは嬉しかったですね。そういう喜びがあるから、なんとか、この仕事を続けられています」

板金職人の世界では、クルマ内部のブラケットなど形の細かい部品を一人前に作れるようになるには5年くらいかかるそう。さらに外板と呼ぶドアやルーフなどを手掛けたくても、先輩からは「外板を触るのは10年早い」と言われた時代であったという。山本さんの場合はどうだったか。

「もう20年以上前になりますが、私が18歳で入社した頃の板金は、大きいプレス機械がいっぱい並べられていて、朝から晩までバンバン叩いた鉄板を受け取って、加工していました。雰囲気は梶さんの頃とまさに一緒で、見よう見まねで覚えていきました」

2人が同じ職場で、協力して作業をすることもある。
山本さん「1人ではできない作業を梶さんがメインでやられて、私が補佐みたいな形で手伝うこともあります。たとえば熱間加工などで、一人では火であぶれないので、私があぶったりして、合図しながら2人で1つのものを作ることもありました。私が失敗したものを直してもらったりしたこともあります」

梶さんの指導を受けながらガス溶接の作業をする山本さん

精度とスピードを両立する熟練の技

山本さんから見て、大先輩の梶さんの技術の凄さとはどこにあるのか。

山本さん「やはり図面通りに正確に作るところと、仕上げるまでのスピードです。精度を高めるには時間がかかるのですが、開発スケジュールの中で、かけられる日数は決まっています。どういう工具や機械設備を使えばよいのかを考えながら、時間をかけずに高い精度で作ることが求められますが、梶さんはその方法を熟知されています。加工の工程を考えながら作っていくのは、やはり経験や知識の豊富さが必要で、同じ板金の職人でもだいぶ差がつくものです」

梶さんから見れば、10年以上の板金歴のある山本さんであっても「まだまだ」ということになるようだ。

梶さん「山本君は、入社した時から昔の職人さんがまだいる時代に基本をやっているので、技術的には十分なものがあります。でも、ほかの面でまだまだ。その辺を今、私が一つひとつ指導しています。彼も板金を10年やっていますが、その間、他の班に行っていた空白があるので、まだ引き出しがなく戸惑っていることが多い。私が、例えば100の引き出しを持っていたとしたら、彼は10あるかないかぐらいでしょうかね」

山本さんをはじめ職場の人たちは誰もが梶さんの職人技を認めているが、梶さんは「私もまだまだ修業中。こうした方がいいかなと、今でもどんどんやり方を変えていきます」と語る。

熟練の技を持ちながら自分の技術に奢らず、技術を追求する姿には、職人としての強いこだわりと責任感が表れている。現状に満足することなく、より良い方法を模索し続けるその姿勢は、周囲の技術者たちにも大きな刺激を与えている。梶さんの背中は、山本さんにとっても、そしてこれからの世代にとっても、大きな道しるべとなるだろう。

試作部 梶さん

師匠と弟子との組み合わせによる技能伝承

これまで紹介してきたように、クルマづくりの各部門は熟練の職人によって支えられている。とはいえ、近年、スキルを持ったベテラン層の定年退職により技能伝承が難しくなっている。試作部を含めた車両技術開発本部では、「マスターエバリュエーター」という教育の仕組みを導入し、師匠と弟子との組み合わせによる技能伝承を行うための取り組みを進めている。

板金加工の現場では、デジタル化が進んだことで職人の数が減少し、古い世代の職人は梶さん一人になった。その次の古株が山本さんである。ここでは梶さんが師匠となり、山本さんをはじめさらに若い世代に技術を伝えている。

山本「時代の変化で、デジタル解析やプレス技術が進歩し、試作期間は短縮されましたが、実際のものづくりでは解析結果と現物の間に生じるわずかな差異への対応が必要です。材料の特性や加工時の変化を経験的に見抜く板金技能者の存在が、品質確保や問題解決に欠かせません。板金技能は代替できないコア技術として社内で再認識され、技能伝承の重要性が高まりました」

梶さん「私は長年、板金をやってきているので、今はその引き出しを彼に見せて、『見て覚えていけ』という感じです。ただ、私のやり方が必ず正解ではありません。基本は一緒ですが、板金というのは数学ではなく国語みたいなものなので、いろいろなやり方で表現の仕方があります。それはもう山本君が私のやり方を見て覚え、それを自分なりにこうした方がいいのかなと模索しながら自分の形を作っていってほしいと思います」

山本さん「板金作業というのはすごく繊細です。例えば叩けと言われた箇所を、何回、どの程度の力の入れ具合で叩くのかによって出来栄えが全然違ってくる。叩くと鉄板のその部分が塑性変形します。単に叩いているだけのように見えると思いますが、私たちは、どのように塑性変形していくかを頭でイメージしながら作業をします。そして微妙な変形を、1回叩くごとに目で確かめながら、2回3回と叩いていきます。鉄板のへこみや光の当たり方等、かすかな変化を感じ取り、的確に叩くという技術がないと、モノを成型できません。図面通りに正確に、手作業で作り上げるには高い技術が必要です」

実際の教育現場で使われている教材。ハンマーを使って加工する様子

梶さん「技術を教えるのに、昔の場数を踏むやり方はよかったと思いますが、今は作業量が減っているので、今は今のやり方で教えていかなければいけません。だから教育の時間を設け、その時間で私の引き出しからどんどん教えています。そこから先は自分で考えてね、というスタイルです。みんな頑張ってやってくれています」

最後に、二人にとって三菱自動車らしさとは何か。

梶さん「やはりクルマの性能ですね。細かいところまで作り上げているところが凄い。試作の作業だけでなく、クルマづくりの、あまり表には見えない至るところまで、こだわっているので、そういうところは三菱自動車らしさではないでしょうか」

山本さん「一致団結して、試作部だけではなくて私たち以外の部署でも、1つのクルマをお客さんに渡すまで良いクルマを造ろうとしています。お客さんが求めているクルマに、精度やこだわりを持って力を注いでいるところだと思います」

試作部は特殊な技能者の集まった、工場でありながらも開発の現場だ。試作がなければクルマは生まれない。熟練の技能者集団は三菱自動車の大きな財産であるだろう。

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