1枚の鉄板から始まる、試作という仕事

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<Part1>1枚の鉄板から始まる、試作という仕事

三菱自動車のクルマはどのようにして造られているのでしょうか。そこには調査、企画、デザイン、設計、試作、テスト、購買、生産、物流、販売という一連の工程があり、それぞれを高い技術力を持ったプロフェッショナルが担っています。その中でも試作部は、設計からの要望を受けて手作りの試作車を製作しており、試作部での製作から走行テストを経て、はじめてクルマは量産体制に入ります。通常は外部に公開されることのない部署を紹介します。

試作段階での板金と溶接はすべて手作業

岡崎製作所(愛知県)の敷地の一角に、試作部の入った建物がある。試作部は完全秘匿のためセキュリティが厳しく、部外者は入ることができない。ここにはボデー(ボディ)を担当する「ボデー班」、エンジンを組み立てる「パワートレイン班」、エンジンからライトまで全ての艤装品を取り付けて車両として組み上げる「艤装班」、試作品の品質検査を行う「品質管理班」などがあり、100人ほどの作業員が働いている。

1階の作業場には、ハンマーで軽快に鉄板を叩く音が響いていた。溶接台では、成形した鉄板を溶接する作業で火花が飛び散っている。作業員は板金と溶接の両方の業務をこなすが、黙々と働くその光景は下町の町工場を思わせるだろう。

今回訪ねたのは「ボデー班」。試作車に必要な部品を作っている板金加工の熟練職人、梶千尋さんと山本寿彦さんに話を聞く。板金といえば、一般には外から見えるボデーを機械でプレスして製作するイメージを持つ人は多いだろう。試作部では外部サプライヤーから届いた部品を溶接する作業もあるものの、内部の細かい部品を手作業で作る板金作業も行う。最初に仕事の内容を説明してくれるのは山本さんだ。

「試作車に使われる部品を作るというのは、例えば、ブラケット*の図面が設計部門から1枚おりてきます。我々はその図面に基づいて、1枚の鉄板から部品を作っていきます」

  • 別の部品をつなぎ合わせたりするための金属部品

試作部 山本さん

山本さんは1996年入社以来、試作部に勤務するベテラン職人だ。ドアパネルやルーフなど大型のものは、外注で成形してもらうが、ここで手がけるのは主にクルマ内部のさまざまな金属部品であり、すべてが試作車のための1点モノ。さまざまな厚さの平らな鉄板をレーザー加工機やハサミで切り抜き、ハンマーで叩き、曲げ、溶接して、立体的な部品を作り上げていく。量産化されるようになれば金型から部品が出来上がり、ロボットが溶接するが、試作段階では板金と溶接はすべて作業員の手によるものだ。

「例えば、O2センサー*を取り付けるのに、どういう形状のブラケットにするか。ここにセンサーを取り付けたいという設計者の考えがあり、その部品のイメージを3Dモデル化して、1枚の設計図面に落とし込みます。それを試作部に持ってこられて、こういうのを作っていただけますかという要望が来ます」

  • 自動車の排気ガス中の酸素濃度を検出するセンサー。ガソリンエンジンの空燃比が適切になるよう調整するためのもの

1枚の図面からどうやって形にしていくのか。
「作業者は、まずその形の部品をつくるための展開図を1枚の鉄板に書いて、レーザー加工機やハサミで切っていきます。設計図面を見ながら、ハンマーを使って折り曲げて、伸ばして絞って叩いていきます。その部品を図面と照らし合わせ、測定器を使って寸法が正確に仕上がっているかどうか確認しながら作業を進めていきます。頼まれる部品は1個の時や、同じものを10個、20個ということもありますが、図面通りのモノができたら艤装班や実験を担当する部署に渡すという流れです。すべて手加工なので要望通りの形状を作るのに、ものすごく時間がかかります。モノによっては1つ作るのに1週間かかることもあります」

ハンマーやハサミなどの道具を使い、右のような展開図から部品に加工する

「私たちは昔ながらのコテコテの板金屋です」

試作車と言えば、一般には新型車かと思われるかもしれないが、それだけではない。その前の段階の衝突実験で試してみるような試験車両づくりや、マイナーチェンジに向けての次の改良のための部品作りを行う改修作業など、様々な要望がひっきりなしに試作部に来る。

「プロジェクトが、次の改良に向けてこういったところを変更したいと言ってくる。改種作業で、例えば『もう少し車幅を広げましょう』であったら、クルマを切って延長して、そこに鉄板の帯を当てる。我々の部署では、人の手で作れる大きさの部品や、複雑な形状のもの、新型車で型を起こせない短納期で作るような、まずは試験をしたいという段階での小さい部品の作業依頼も来ます。私たちは昔ながらのコテコテの板金屋ですよ」

クルマづくりの出発点を支える試作部。その現場で磨かれてきた技は、どのように培われ、受け継がれてきたのか。次回は、職人たちの歩みとともに、その技の継承に迫る。

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