他社との協働の中で見出した“三菱自動車らしさ”

軽自動車市場が成熟期に入り、ユーザーが求めるもの変わっていきます。これらに対応するべく、さらなる開発が求められる中、「eK」シリーズはどのように進化していったのでしょうか。「eKシリーズ物語」の後編です。(前編はこちら)

3代目『eK ワゴン』:軽自動車市場のメインストリームに挑む

PD室
鴛海 尚弥
3代目『eKワゴン』/
『eKスペース』の商品企画を担当。CPSを務める。

2010年代に入ると日本の軽自動車市場は成熟し、ユーザー層が拡大していきます。これまでは高齢者や女性が軽自動車ユーザーの中心でしたが、普通・小型車から軽自動車へとダウンサイジングする人たちが増加。軽自動車がファーストカーとして選択されることが多くなると、ユーザーが軽自動車に求めるものも「軽でいい」から「軽がいい」へと変化しました。軽自動車ならではの維持費の安さや日常での使いやすさはもちろん、「レジャーで使いたい」、「小型車並みの室内空間がほしい」といった要望も増加。安全性能についても先進の装備を求めるユーザーが増えていったのです。
車両価格を維持しながら、どうやってお客様の要望に応えていくのか。当社の出した答えは日産自動車(以下日産)との協業でした。2011年、日産と当社は軽自動車に関わる合弁会社として株式会社NMKVを設立。軽自動車づくりのノウハウがある当社が開発と製造を担当し、軽自動車に初めて挑戦する日産は部品調達や企画領域を担当することになりました。フレームやサスペンション、ステアリング、パワートレインといった、クルマに不可欠な基礎部分であるプラットフォームを共用すれば効率的な開発が可能になります。調達する部品の数も増えるので、部品も安く購入できる。コストが抑えられた分、価格を下げたり、最新装備を充実させたりできます。
新たな体制で考えたのが、軽自動車市場のメインストリームとなっていたハイトワゴンタイプでした。日産と協業することで、両社の強みを融合することができるようになり、ハイトワゴンカテゴリーでの真っ向勝負が可能になったのです。当社の商品企画として日産チームとプランニングを進めた鴛海尚弥は、大きなチャンスだと感じていました。
「日産チームと毎日、顔を合わせながら、競合他社にどこで勝つのか議論を重ねた結果、『登録車メーカーとして日産と三菱自動車が積み重ねてきたノウハウこそがストロングポイントなんだ』という結論に達し、開発の方向性が見えてきました。小型車からSUVまで幅広いラインアップのクルマを開発・生産してきた私たちだからこそつくれる軽自動車がある。そう確信を持ちました。」
2代目から全高を70mm、ホイールベースを90mm拡大したことで、前席と後席のスペースも107mm拡大され、後席での快適性も高められました。また、軽自動車初となるタッチパネル式オートエアコンや、当社の軽自動車では初となる副変速機構付CVTを採用。登録車並みのクオリティを実現することで、メインストリームで戦う手段を詰めていきました。

3代目eKワゴン

一方で、どうすればお客様に当社のクルマを選んでもらえるのか、という大きな課題にも直面しました。3代目『eKワゴン』と「日産デイズ」はプラットフォームだけでなく、基本的なボディ部品も共用。三菱自動車らしさを追求できるのはボディにつけるパーツだけ。バンパーやヘッドライト、ガーニッシュといったパーツを変えることで違いを出さなくてはいけない。
「結果として、2社でフロントバンパー4種類、リヤバンパー2種類を用意することになりました。生産する水島製作所は苦労したと思いますが、積極的に協力してくれました。おかげで三菱自動車らしさを何とか形にすることができました。」
クルマづくりの体制は変わっても、「いい軽」にするためにお客様の声に耳を傾け真摯に要望に応えるという開発姿勢は変わりません。使い方や装備に関するお客様へのヒアリングを何度も繰り返しました。
「中でも印象的だったのが、軽自動車の利用者が多い九州のお客様の『後席に座った子供が暑がるので、つい後ろを見てしまう』という声。ちょうど、3代目で新たに追加する、スーパーハイトワゴン『eKスペース』の仕様をどうすべきか悩んでいた時期だったんです。そこで、様々なユーザーの意見を聞いた上で、室内空間が広い『eKスペース』でも後席が快適になるように、ルーフの中央に設置した送風口から後席に風を送る「リヤサーキュレーター」や、日差しを和らげる「ロールサンシェード」などを採用しました。

eKスペース

4代目『eKワゴン』『eKクロス』:三菱自動車らしさへの答えを軽自動車に込める

デザイン・戦略部
安井 智草
4代目『eKワゴン』『eKクロス』のカラーデザイン取りまとめを担当

CPSチーム
NMKV兼務
藤井 康輔
4代目『eKワゴン』『eKクロス』のCPSを務める。

3代目ではパーツで何とか差別化したものの、軽自動車市場にも様々な商品がひしめいており、突出した商品力によって、 販売会社の店舗に足を運んでもらえるほどの個性をつくり出すことはできませんでした。そこで、万人をターゲットにして商品力を磨き上げるよりも、三菱自動車を愛してくれるお客様の期待に応えることを第一に目指すことにしました。開発担当が日産に替わり、当社は生産を担当。日産がすべてのニーズに高次元で応えるハイトワゴンにしたいと要望する中、当社としてはどのように差別化して、どこを狙うのか。社内でも議論が分かれる中、SUVテイストの特徴車を設定しようという声があがったのが、目標となる性能を決めるために競合車を評価していた時期。
4代目の商品企画を担当していた藤井康輔は「差別化するためにはターゲットを変える必要がありました」と振り返ります。
「クルマに乗る人が高齢化してきていますが、将来のことを考えれば若い人を狙わなければいけません。日産と同じく幅広いお客様は『eKワゴン』で狙うけれど、若い人をターゲットにした『eKクロス』も必要だと考えたんです。共同開発する日産側とも何度も議論しましたが、最終的にはブランドが違うのだから同じものをつくっていてはダメだ、という結論に達しました。」

eKクロス

4代目eKワゴン

『eKクロス』はアクティブなイメージを意識してデザイン。アウトドアといっても山でキャンプといった本格的なものではなく、野外フェスティバルでテントを張ってバーべキューするようなライトなテイストです。軽いアウトドア感を出すために若者向けのアウトドアのグッズやウェアを研究しました。特にこだわったのがカラーです。カラーデザインを担当した安井智草は「世界観を変えられるのがカラーの力」と話します。
「色や素材を変えることで、全く別の印象を持つ商品をつくることができます。『eKクロス』では自然にあふれた場所を走ることをイメージしました。例えばサファイヤブルーメタリックを海辺に似合う爽やかな印象にするために、ルーフへはスターリングシルバーメタリックを合わせました。一方でオリーブグリーンメタリックは野外フェスティバルの会場や森林の中をイメージしましたが、ルーフをシルバーにするとコントラストが強く浮いてしまうためので、チタニウムグレーメタリックを合わせ落ち着いたテイストにしています。そして一番こだわったのがイエロー。当初はフレッシュなレモンイエローを検討していたのですが、SUVらしさを出すためにナチュラルで少し重みのあるサンドイエローメタリックを採用しました。私自身も色や素材にこだわることで、ここまで三菱自動車らしい世界を広げられるとは思いませんでした。」

サファイヤブルー
メタリック

オリーブグリーン
メタリック

サンドイエロー
メタリック

フロントのフェイスデザインには『アウトランダー』や『デリカ D:5』と同じく「ダイナミックシールド」を採用し、『eK クロス』のフロントデザインはオフロードを駆け抜ける喜びを感じさせるデザインになりました。「ダイナミックシールド」が軽自動車におさまることを想像できなかった関係者も多く、社内でも衝撃が走りました。
力強い走りを実現した新パワートレインに加え、ホイールベースを65mm伸長させたことで、大人4人がゆったりと快適に過ごせる室内空間を実現。さらに高速道路同一車線での運転を支援してくれるマイパイロットを採用した『eKワゴン』はまさに安全で便利で快適なクルマ。『eKクロス』はその魅力を持ち合わせつつ、三菱自動車らしさを存分に発揮した軽自動車になりました。
高齢化が進む日本市場では、子育てを終えた世代が「これで十分」と軽自動車を選択することも増えるではないでしょうか。『eKクロス』は若い世代だけではなく、『アウトランダー』や『デリカD:5』でSUVライフを満喫したお客様にとっても選択肢の一つ。雨の日や雪の日、ぬかるんだ路面など、さまざまな路面状況においていつでも安心して乗れる。そういった普段使いの足になることが三菱自動車の選ぶべき方向性だと当社は考えています。
そして、20年以上にわたってお客様の声を商品に反映させてきた「eKシリーズ」のDNAは、2022年に発売された『eKクロス EV』へと引き継がれていくのです。

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