軽自動車とEVの融合でクルマの常識を超える

Mitsubishi Motors Storiesでは、軽自動車eKシリーズの誕生秘話や当社のヘリテージを紐解いた「eK開発物語」、当社が長年培ってきたEV技術を振り返る「EV開発物語」を紹介してきました。
今回は、この2つのストーリーの先につながる、2つの要素が融合した軽自動車EV『eKクロスEV』について振り返ります。

軽自動車だからといって何一つあきらめない

CPSチーム
NMKV兼務
藤井 康輔
軽自動車をはじめ国内専用車の商品企画を担当。 『eKクロス EV』のCPSを務める。

プロジェクト開発マネジメント部
貴志 誠
量産車開発の取り纏めを担当。
2006年頃から『アイ・ミーブ』、その後も軽自動車EVを担当。

新型軽自動車EVの商品企画を担当した藤井は、軽自動車のEVを造るにあたり、お客様が軽自動車に求める要素をしっかりと満たすことが重要だと考えていました。
「長い時間をかけて進化してきた軽自動車は、熟成されていました。お客様がクルマに求める基本的な部分はEVであろうとガソリン車であろうと変わるわけではありません。軽自動車のガソリン車に対して競争力を持つには、荷室の広さや小物入れの充実といったお客様の使い勝手や居住性はガソリン車と同じレベルを確保する必要がありました。ただでさえ小さい軽自動車のボディに、EVのコンポーネントを詰め込んだ上に、ガソリン車に負けないスペースを確保するのは難しいもの。しかし、当社は今までの電動車開発の過程で車載用電池やモーターなどをコンパクトに改良してきましたし、パッケージングを最適化する技術も進化させてきました。これは日産も同じです。この2社であれば競争力のある最良の軽自動車EVが開発できると思いました。」
2016年、軽自動車のEVを開発・販売することで両社が合意。2019年に発表された4代目『eKワゴン』や『eKクロス』、2代目『日産デイズ』のプラットフォームは床下にリチウムイオン電池を搭載することを前提に開発されました。
2社共同で開発・生産するからといっても両社の軽自動車EVが全く同じクルマになるわけではありません。それぞれの会社の「こんなクルマをつくりたい」というコンセプトは違います。「eK」シリーズの4代目からは、開発は日産が主導し、生産は当社が担う役割分担となっていましたが、企画とマネジメントを担うNMKV*1が調整役となって、デザインも含めた車体の外観や内装など、上物(うわもの)はまったく違うものとして商品の差別化を図りました。その一方で、プラットフォームやパワートレインなどはできるだけ共通化。部品の生産規模が拡大することでコストパフォーマンスが向上し、低減できた費用で、最新技術を搭載できるようになるだけでなく、『アイ・ミーブ』では叶わなかった車両価格の低減についても実現の可能性が見えてきました。
新たなEVの開発を前に当社のスタッフは強い決意で挑みます。
「三菱自動車が目指している、環境×安全・安心・快適。軽自動車だから何かを犠牲にしていいということではありません。オプション設定を工夫しながら、お客様が求めるものは出来るだけ用意しようと考えました。」(貴志)
「仕方がないから軽自動車を買うという時代が続き、ここ10年ぐらいは軽自動車がいいというお客様も増えたものの、走行性能や静粛性など軽自動車ということであきらめていた点もありました。それが電動化されたことで大きく向上するのです。EVで新たな軽自動車の扉を開きたいと思いました。」(藤井)
2022年、彼らの思いは『eKクロス EV』としてカタチになります。

右から『eKクロス EV』『eKクロス』『eKクロス スペース』

EVは選択肢の一つに過ぎない、そんな時代がやってきた

EVはもはや特別なクルマではありません。誰もが気軽に選べる軽自動車EVとして、日本の軽自動車市場に革新をもたらしたのが『eKクロス EV』です。
「EVはお客様にとって一つの選択肢に過ぎません。EV化してもガソリン車から大きくデザインを変えないというのが当社の基本的な考え方です。グローバルに調査した結果、特に欧米ではEVだからといってものすごく変わったデザインをお客様が求めているわけではありません。『eKクロス EV』も『eKクロス』のグレードの1つにEVがあるという位置付けです。EVの市民権を得たいという思いも強く、あえて専用の外観をつくりませんでした」と藤井。
先に発売された『eKクロス』は当社独自のフロントデザインコンセプト「ダイナミックシールド」を採用し、遊び心に満ちたSUVテイストが際立ったデザインになっています。『eKクロス EV』もそのコンセプトを踏襲しつつ、SUVらしさとEVらしさを融合させています。ボディカラーについては、ミストブルーパールとカッパーメタリックのツートーンをEV専用色として追加しました。
インテリアにはEVらしさを感じさせるクリーンなデザインを採用。薄くした電池を床下にレイアウトすることで、『eKクロス』と変わらない広々とした空間を確保しています。
大容量のリチウムイオン電池を搭載することにより、航続距離はWLTCモード*2で180kmと日常使いとしては十分。ガソリンスタンドに行く手間がかかりません。モーターは『アウトランダー』のリヤモーターと同等の最大トルク195N・m。『アイ・ミーブ』と比較して約20%も向上しました。他にもアクセルペダルだけで加減速を制御するイノベーティブペダル オペレーションモードという電動車ならではの制御技術を採用しました。
「ガソリン車やディーゼル車との違いで一番大きいのは、モーターによるトルクをドライバーが出したい意図どおりに瞬時に出せること。加速にしても変速ショックがまったくないように制御されているので乗り心地がいい。平常走行から加速しようと急にアクセルを全開にしたときのレスポンスは、ガソリン車と比較にならないレベルです。また200kgもの電池を床下に配置することで重心が下がっていますから、コーナリングやブレーキをかけたときの車体姿勢が安定している。EVやPHEV開発などで培ってきた、これまでの技術があったからこそ実現できた性能で、安心安全にもつながっています。」(貴志)
「『これはもう軽自動車ではない』とよく言われます。私自身も愛知県の岡崎市にあるテストコースで試走しましたが、加速性能、操縦安定性、静粛性が『アイ・ミーブ』と比べて格段に進化していました。走行性能についてはコンパクトクラスを凌駕しています。」(藤井)
先進技術に関しても、高速道路の同一車線での運転を支援する「マイパイロット」だけでなく、スムーズで手間のない駐車を支援する「マイパイロット パーキング」を当社として初めて採用。ドライバーの安全・安心を最新技術でサポートします。
「マイパイロット パーキングについては、ご高齢の方や免許を取られて間もない方などが乗った時には非常に便利な機能。縦列駐車などのシーンで安心に駐車することができます。マイパイロットの追従走行や車線維持機能に加えて、ワンペダルでの操作が可能なイノベーティブペダル オペレーションモードについても『運転が楽になった』という声をいただいています。」
当社の「軽自動車」と「EV」で培った技術を惜しみなく投入して造られた『eKクロスEV』。軽自動車の枠を超えた走行性能を持ち、誰でも安全に、そして楽しくドライブできるこのクルマは、新たな価値を毎日のカーライフにもたらしてくれます。さらに、走行中のCO2排出量はゼロで、持続可能な社会との共存も可能です。これまで三菱自動車が培ってきた「eK」シリーズを始めとした軽自動車技術と、EV技術の融合が『eKクロス EV』という商品で結実し、新たな価値を生み出したのです。そして、三菱自動車はこれからも新たな価値をお客様に提供するために、モビリティの可能性を追求し、活力ある社会に寄与するべく、ワクワクと情熱を産み出すために日々クルマづくりに精進してまいります。

『eKクロス EV』

⋆1 日産と当社が2011年に設立した軽自動車に関わる合弁会社。

⋆2 市街地、郊外、高速道路の各走行モードを平均的な使用時間配分で構成した国際的な走行モードです。