『デリカD:5』の子供。『デリカミニ』に託されたキャラクターとは?

軽自動車でも“デリカらしさ”を追求したい。軽自動車である『デリカミニ』に宿された“デリカらしさ”の秘密は、「キャラ付け」にもありました。後編では、そのキャラクターづくりに迫ります。

「やんちゃ坊主」というキーワードでイメージが明確に

後藤 淳
デザイン・戦略部
『デリカミニ』のエクステリアを担当

越山 明日香
デザイン・戦略部
『デリカミニ』のカラーを担当

何でもない日常でも、クルマに乗ることでワクワクして欲しい。日常使いからアウトドアまで、オールラウンドに使われる軽自動車の用途に合わせて、『デリカミニ』のキーコンセプトは「DAILY ADVENTURE(日常に冒険を)」になりました。そして『デリカD:5』を親、『デリカミニ』を子ととらえるイメージで、デザインパーソナリティーを「やんちゃ坊主」に。
それを象徴しているのが、印象的なヘッドランプのデザインです。
「フロント部分をクルマの顔と考えるなら、アイブロー(まゆげ)に相当するのがボンネットフードの一番前側のラインですが、ここの部分は最初から決まっていました。そこで、目ととらえられる、ヘッドライトの円をどこで切るのかにこだわりました。凛々しくて、なおかつ憎めない、可愛らしさのある表情に見えるように、半円のシグネチャーや黒目と白目のバランスをミリ単位でのコントロールを繰り返しながら作り込んで行きました」と後藤は話します。モデラーと3次元モデルをつくりながら、何度もデザインレビューを繰り返したそうです。

タイヤの見え方でも、クルマの印象は大きく変わります。タイヤとボディの間の隙間が少ないとスポーティな印象になり、タイヤが露出されているとオフローダーのイメージが強くなります。「クルマを見るだけで、四輪駆動による走破性の高さをお客様に感じてもらえるように、車体がリフトアップされていて重心が高く見えるようなデザインにするというのも大きなテーマでした」と後藤。
「フロントは中央のスキッドのデザイン部分にはボリューム感を持たせて、そこから外側のタイヤの前では切れ上がることでタイヤをできるだけ見せたいと考えました。ただフロントは空力の要件があるのに加えて、ホイールハウスの内側のフェンダープロテクターと呼ばれる部品等もありタイヤを露出することは難しい。そこで、造形的には切り上がったフォルムに見せながら、正面から空気が当たらないように工夫しました。リアは後ろからよりタイヤが見えるようなデザインにしています。」

サイドでは、フェンダーのホイールアーチを黒にすることで、タイヤの存在を強調し、リフトアップ感を出しています。通常は樹脂製のガーニッシュを付けたり、ステッカーを貼ることで黒を表現しますが、『デリカミニ』の場合はパネル部分をベース車と共有するので、それができません。そこでボディカラーとホイールアーチの黒を塗り分けることで解決することになったのです。「何もガイドのない平面を塗り分けるのは難しく、苦労した」と越山は振り返ります。
「まず黒を塗り、マスキングした後でボディ色を塗るという工程まで含めて、車両の生産を担当する水島製作所の塗装技術部門が検討してくれました。特に難しかったのが、色が重なる部分。ボディカラーによっては下塗りが見えてしまうので、エクステリアデザイナーと塗り分けのラインの角度を緻密に調整しました。塗装にすることで樹脂製ガーニッシュを付けるよりも質感も高く見えます。」

多様なお客様の“パートナー”になるために

2023年のオートサロンで初公開した『デリカミニ』。男性からは「『デリカ』らしくていい」、女性からは「カワイイから好き」と、異なる反応ながら、どちらからも好印象を得ました。
「『デリカ』が『可愛い』と表現されるのを、これまで聞いたことがありませんでした。『ヘッドランプが本当に目に見えるところがすごくいい』、『可愛いだけじゃなくて、ほどよくやんちゃなところが好き』など、やんちゃ坊主というデザインパーソナリティーもしっかりとお客様に届いたことが感じられました」と越山。後藤も「今回、やんちゃ坊主というデザインパーソナリティーを設定したことで、クルマづくりに関わるスタッフがイメージを共有することができました。『デリカ』という名前が持つヘリテージも相まって、強いメッセージとなり、お客様にその価値や世界観が伝わっているのだと思います」と手応えを感じています。
今回、デザインチームが大きくインスパイアされたのが、歴代の『デリカ』のお客様から送られた写真でした。それぞれのライフスタイルに合わせて、『デリカ』の使われ方もさまざま。「お客様の多様なニーズに応えられるクルマづくりが求められていることを再確認しました」と二人は口を揃えます。

「クルマは買っていただくだけでなく、使ってもらって初めて商品として完結します。私たちのクルマでどんな想い出をつくってもらえるのか。これからもお客様の心を動かすクルマをデザインしたい」と後藤は意気込みます。
特殊と言われる日本の軽自動車のマーケットでは、近年特にクルマのキャラクターがしっかりと構築される傾向があると言われています。クルマのパーソナリティーをしっかりとお客様に伝える、その重要性も高まっていきそうです。
今後、三菱自動車らしさをどのように時代にマッチさせていくのか、その答えは、『デリカミニ』のクルマづくりの過程に隠されているのかもしれません。