コンパクトなボディに詰め込まれた“デリカらしさ”

軽自動車でも“デリカらしさ”を追求したい。軽自動車でもSUVならではのスタイリングや、アウトドアでも安全・安心で快適な走行性能を実現したい。そんな思いを込めてつくられたのが『デリカミニ』です。デザインでは誰にでも愛される可愛らしさと、どんな道でも走破してくれるような力強さを両立して表現することにこだわりました。

歴代の『デリカ』“らしさ”を分析

後藤 淳
デザイン・戦略部
『デリカミニ』のエクステリアを担当

越山 明日香
デザイン・戦略部
『デリカミニ』のカラーを担当

2023-2024 日本カー・オブ・ザ・イヤーにおいて三菱自動車の軽スーパーハイトワゴン『デリカミニ』は“デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー”を受賞しました。三菱自動車が“デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー”を受賞したのは初めてのこと。「『デリカ』のモデル名を用いるだけでなく、外観面でも同じ世界観を共有した意義も大きい」とそのデザイン性が高く評価されました。1968年に発売されて以来、50年もの間、磨き続けてきた“デリカらしさ”がしっかりと表現されているだけでなく、やんちゃ坊主のようにたくましいのに愛くるしい表情は多くの人に受け入れられ、愛されています。
『デリカミニ』のプロジェクトのベースの一つはデザイン部門で開催された「三菱自動車らしい軽自動車を考える」という社内スタディでした。参加したデザイナーが自由に三菱自動車らしさを表現する中で軽の『デリカ』というコンセプトが生まれ、スーパーハイトワゴンのパッケージングで量産化に向けて動き出しました。
歴代の『デリカ』には2,3代目のスターワゴンや4代目のスペースギアといった名車がありますが、いずれも車体は3列シートのミニバンタイプ。軽自動車というカテゴリーでどのように“デリカらしさ”を表現するのか、というのがこのプロジェクトの課題でした。エクステリアデザインを担当した後藤は「軽自動車で、なおかつ時代にマッチした『デリカ』をデザインするには、歴代の中から特定のデリカのデザインをそのままコピーしても意味がありません。本質的なアプローチをするために、“デリカらしさ”の要素を分析していきました」と言います。

『デリカ』は広い室内空間を持つパッセンジャーカーです。家族を守ってくれるという安心感やタフネスさが“デリカらしさ”の大前提としてあります。「このクルマだったらどこへ行っても安全に戻ってこられる。そんな安心感を与えるにはデザインにもロバストさ(強靭さ、頑強さ)が求められます。特に重要なのはフロントフェイスです。」
これまでの歴代『デリカ』はカンガルーバーをはじめとするアイコニックなパーツがフロントの中央に取り付けられることが多く、それが『デリカ』の力強いイメージにつながっていました。「フロントフェイスのボリューム感と立体感が“デリカらしさ”のカギです」と後藤は指摘します。
「当社のフロントフェイスデザインというと、ダイナミックシールドの特徴的なグラフィックを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、そのベースはあくまでもヒト・クルマを守るという機能優先の考え方。クルマの持つタフさと信頼感をフェイスデザインとして表現したのがダイナミックシールドなんです。」

一方で、軽自動車はボディサイズが決められているため、できるだけ室内スペースを広くするには、ボディを規格ぎりぎりまで使わなければならず、造形が平面的になる傾向があります。どうすれば無駄なスペースを発生させることなく、立体的なデザインができるのか?これが『デリカミニ』の課題になりました。
「特にフロントにはセンサーやレーダー類が配置され開口部もあるため制約も多いですが、中央を立体的にすることで力強さを表現したかったので、できることを片っ端からトライしてダイナミックシールドを起点にしたボリューム感のあるデザインにしました」
細部においても、フロントグリルに3次元的なブロックのデザインを採用。バンパーの下のロアグリルも前後方向に凹凸をつけることで、立体感を出しています。

「立体感を出すためにカラーや素材の質感でも工夫しました」とカラーを担当した越山も話します。

「形状を際立たせる為に、色や素材でコントラストをつけています。また下部にシルバーを使うことで、リフトアップ感を強調しています。さらに、グリルの樹脂素材にシボという表面に柄を入れて質感を高める加工を施すことで存在感とギア感(道具感)を高めました。」

どれだけ“今”の時代を映したカラーにできるか

車体全体のカラーリングにも、“デリカらしさ”が表現されています。

「歴代の『デリカ』の中でも、私の中で印象に強く残っていたのがグリーン。実際にグリーンが人気色で象徴的な色でした。グリーンと言っても色の幅は広く、歴代『デリカ』のグリーンのサンプルを集めて分析するところから始めました。新しいクルマとしてフレッシュさを感じてもらいたかったので、今の時代に合ったグリーンにしたいと考えました」と越山は話します。

その結果、越山が提案したのがアッシュグリーンでした。最初はアウトドアのギア(道具)感を出すためにソリッド調なアッシュグリーンを開発していたものの、「光の条件によってクルマのフォルムが見えにくくなる」という気づきがあり、メタリックの量を増やして作り込んだと言います。最新のデータによれば、『デリカミニ』ではモノトーンとツートーンを合わせて3割を超えるお客様がアッシュグリーンをセレクトしています。

「グリーンがこれほど比率で選ばれているのは、私もビックリしました。ルーフとピラーをブラックにしたキャビンブラックツートンや、ブラックのパーツをバランス良く組み合わせて、アッシュグリーンの面積をコンパクトにしたこともあり、好き嫌いが分かれるグリーンも受け入れられやすくなったのではと思っています。」