『デリカ』がもたらしたものとは

『デリカ』の誕生から55年。日本で50年以上、同じ車名を継続して販売されているクルマはそれほど多くありません。多くの方に長く愛され続けるに至った『デリカ』の変遷、受け継がれる『デリカ』らしさについて紐解きます。

『パジェロ』の技術をミニバンに融合

商品企画部
上原実
『デリカD:5』の商品企画を担当。

94年には、4代目となる『デリカスペースギア』が登場。ギア=“道具”の感覚でクルマを使いこなし、パートナーとして愛着を持ってもらえるよう、この名前がつけられました。エンジンはこれまでフロントシート下にレイアウトされていましたが、乗用車と同じくノーズ部に収めるフロントエンジンレイアウトを採用し、前面衝突安全性を大幅に向上させました。また、室内は前席足元からラゲッジルーム後端までフラットフロアとし、前席から後席キャビンへのウォークスルーも実現させて、安全性・快適性の両面を向上させました。
また、4代目のボディ構造は、ラダーフレームとモノコックボディを融合。ラダーフレームに匹敵する高剛性を確保したのに加えて、モノコックボディでクラッシャブル構造(乗員のいるスペースを守るため、あえて、車体の前後部分を潰れやすく設計)を実現しました。上原は「足回りにも『パジェロ』の四輪制御技術を採用して、飛躍的に高性能化させた」と話します。
「当時の一般的なSUVタイプの4WD車は、パートタイム式が主流でセンターデフを搭載しておらず前輪と後輪がシャフトを通じて直結しているため、前後輪の回転差を吸収できず、悪路を走ることはできたものの、デメリットも多かったのです。例えば、ハンドルを切った時に思ったように曲がれなかったり、駆動系の故障原因となるため、舗装路では4WDで走行できないなど、運転に慣れているドライバーでないと乗りこなせなかったのです。そこで当社は、直結で走行するモードのほか、前後輪の回転差を低減し走行可能なモードを追加した、四輪制御技術『スーパーセレクト4WD』を他に先駆けて開発し、『パジェロ』『デリカ』に導入。この『スーパーセレクト4WD』では、デファレンシャルギアを使用することで直結しなくても四輪駆動できるモードも搭載されており、砂場やガレ場を走破できる一方で、舗装路は快適に走れるようになった。だから誰でも使いこなせるようになった。それが『四駆の三菱』といわれるようになった所以です。」
自家用車の第1候補はセダンかワゴンという時代に、当社は『デリカ』や『パジェロ』で、普段使いはもちろん、本格的なアウトドアでも活躍するRV(Recreational Vehicle)という新たなジャンルを切り開きました。その人気を牽引した理由は「徹底したリアリティへのこだわり」だったと上原は言います。
「入社した頃に最初に与えられた仕事が、1991年にスタートした当社主催のスターキャンプに参加すること。当社の商品はキャンプとの親和性が高く、当社のユーザーにもキャンプ愛好者が多かったことから、こういったイベントを活用して、自らもイベントに参加することで、アウトドアでキャンプする楽しさを身をもって体験すると共に、当社のユーザーの方々の声に触れることができました。おかげで、アウトドア関連のさまざまな専門家と知り合えて、プロがどんな風にギアを使うのかも知ることができました。例えば工具箱にはマグネットのついた懐中電灯が入れられており、車体にくっつければ夜でもスノーチェーンを着脱できます。頭の中で捻り出すのではなく、リアリティを追求し、アウトドアの現場に行き、実際にクルマに使ってみたからこそ思いつくようなアイデアを新しいクルマに盛り込んできました。だからこそ、お客様は『分かってるね、三菱自動車』と感じてファンになってくれたのだと思います。」

4代目デリカ

議論を重ねてたどり着いた『デリカ』の本質

その後、景気後退の波を受けてアウトドアブームが終焉。クルマもレジャーでの用途より、いかに街の中で便利に使えるかが重視されるようになっていきました。買い物した商品をトランクに積みやすい、地上高が低く乗り降りしやすい、車高が低くどんな駐車場でも使用できる、そうしたクルマがもてはやされ、アウトドアニーズに応える4WDメインのクルマで市場を牽引してきた当社は大きな岐路に立ちます。あくまでもアウトドアにこだわるのか、それともタウンユースメインにシフトするのか。社内でも議論が二分される中、2007年に5代目となる『デリカ D:5』を発売しました。優れた居住性と積載性を誇り、かつオフロードからオンロードまで幅広く活躍するオールラウンドなSUVミニバンです。
「メンバー全員でたどり着いた結論は、『デリカ』の本当の価値は、アウトドアに強いというところだけじゃない、ということでした。アウトドアに行けるが故に鍛えられた走行性能は、街中だって役に立つ。豪雨、豪雪のような悪条件でも大切な家族や仲間と自信を持って移動することができて、快適に過ごせる。『デリカ』はそういう唯一無二のクルマなんだと考えました。」

5代目デリカ

三菱自動車が目指す異次元の「誰でも意のままに」

『デリカ D:5』は居住性や積載性を確保するために、これまで縦置きだったエンジンを横置きに配置。ミニバンらしい生活に寄り添う優しさを持ちつつ、『デリカ』らしいSUVの力強さも融合させるために、本格SUVに匹敵する最低地上高や十分な対地障害角を確保しました。その両立ができた証拠に、『デリカ D:5』は2007年に開催されたパリダカや、2023年のアジアクロスカントリーラリーにおいてサポートカーとしても活躍。パリダカで総合優勝2連覇を果たした増岡浩も「あれだけちゃんと悪路を走行できる上に、なおかつ乗り心地が良いので、乗車したメカニックたちの疲れが『デリカD: 5』のおかげでどれだけ低減されたことか」と称賛しました。
「家族で楽しめるのに加えて、SUVの頼もしさも加えたのが『デリカ D:5』。安全・安心で快適だから足場が悪いところにも難なく行けて、アウトドアを楽しめる、そういう理解なんです。よく『誰でも意のままに走れる』という言い方をしますが、当社にとって“誰でも”とはプロフェッショナルなニーズも満足させることを意味します。なぜなら本当のプロユースは誰にでも使いやすくないといけないからです。
そして“意のままに”とは、“上手い人は上手いなりに、そうでない人はそれなりに”ということではなく、私たちが目指しているのは、クルマが人をサポートすることで運転に慣れていない人でも上級者のようなドライビングができること。それを象徴しているのが『デリカ』だと思っています。」
お客様に安全・安心で快適な走りや空間を提供することをベースとして、その先に、三菱自動車でしか叶わない、価値ある体験をお客様にお届けする。歴代の『デリカ』には三菱自動車らしさの原点が息づいています。
そして2023年、当社はジャパンモビリティショーにおいて新たな『デリカ』の形として『MITSUBISHI D:X Concept』を発表しました。当社はこれからも、その時代に合った三菱自動車らしい商品をお客様に提供してまいります。

2023AXCRサポートカー『デリカD:5』

2023JMSコンセプトカー『MITSUBISHI D:X Concept』