第12回大会は、12月25日に建国200年祭で賑わうパリ郊外の新凱旋門をスタートし、アフリカにはリビアの首都トリポリから上陸。１月７日のアガデスでの休息日を経て16日にダカールのラックローズにゴールする総走行距離11,391km、うち競技区間（SS）7,864kmで競われる。ビバークでのサービスを禁止するマラソンステージが初めて設定されたのもこの年だった。マラソンステージは強力なサービス体制を敷くワークスチームとプライベーターの格差を是正することを目的として企画されたが、これをカバーする前後ビバークでの整備内容が大きく影響するなど、結果的にはプライベーターにとってより厳しいものとなっている。その影響もあってか、この年参加した四輪車の完走率は3割を切った。

岡崎のモータースポーツチームが開発した先行研究車「岡崎プロト」の１号車は、第11回大会終了後の89年2月に完成した。マルチチューブラーフレーム構造のシャシーに、前後Ａアームを共用化した四輪ダブルウィッシュボーン独立懸架式サスペンションを採用。2.6Lの4G54型よりも全長の短いコンパクトな2.2Lの4G63型ガソリンエンジンは最高出力280PSまで高められ、フロントミッドシップで搭載。エンジンを右側にオフセットすることでフロントデフを車体中央に配置し、ドライブシャフト長を伸ばしてジョイントの折れ角度を小さくするなど、様々なアイデアがちりばめられていた。エンジンを自然給気としたのは、当時、過給機を禁止する規則変更が噂されていたためである。岡崎プロト1号車をベースとしたプロトタイプは実戦を通じてテストしたが、ダカールラリーに投入するのは時期尚早と判断され、89年モデルをベースに後輪を独立懸架式サスペンションとした、いわばハイブリッドバージョンが90年モデルとなった。三菱自動車チームからは、コーワン、ラルティーグ、篠塚、フォントネがパジェロ・プロトタイプの90年モデルで出場。なお、コーワンがドライブする90年モデルには、次年度に投入予定の2.2Lの4G63型ガソリンターボエンジンが先行して搭載された。これは世界ラリー選手権を戦うギャランVR-4のエンジンをベースとしており、最高出力300PSと最大トルク45kg-mを発揮した。また、増岡がパジェロ・ロングの3L V6ガソリンエンジン搭載車で市販車改造クラスに参戦した。

アフリカ上陸後に本格的なSSが始まると、プジョーのバタネンが早くもリードする。これを追う三菱勢ではチームのサポート役であるラルティーグとフォントネを前半戦で失うが、コーワンと篠塚は総合4位、5位でフィニッシュ。篠塚は2つのSSトップタイムを記録するなど健闘したものの、WRCグループＢ規定のラリーカーをベースとしたプロトタイプであるプジョーに対し、市販車をベースとしたプロトタイプであるパジェロの限界も感じさせた。一方、増岡は総合10位で市販車改造クラス優勝を果たし、菅原義正がクラス２位、マロー兄弟が３位など、パジェロは同部門で１～４位を独占。PX-33レプリカで初参戦した元二輪世界選手権チャンピオン片山敬済も総合25位で完走した。