三菱 アウトランダーPHEV、
3年目の挑戦!
8日開幕へ「フィールは上々」
三菱『アウトランダーPHEV』がタイで開催されるアジアクロスカントリーラリーに参戦して3年目となった。
今年使うマシンは10月にワークスチームとして参戦が予定されているポルトガルの「バハ・ポルタレグレ500」と同じ仕様。このマシンでの挑戦に向けて「ツーアンドフォー モータースポーツ」が現地に入った。
今年のマシンはボディを拡幅して、トレッドを広げたので見た目がかなり迫力を増しているが、変わったのはそれだけでない。たとえば、昨年までは市販車の燃料タンクをそのまま使っていたが、今回は競技用の安全タンクを搭載。それに伴って、フロントシート後ろ側には レギュレーションに合わせるためバルクヘッドが設けられた。
サスペンションはテインのスペシャルメイドとなった。昨年仕様では伸び側のストロークが少なく、ジャンプしたときなどに着地時に苦しい場面もあったが、新しい仕様ではその心配もない。
8月7日。チームが向かったのは、チェンマイ郊外にあるダートコース。ここで今回のマシンのタイにおけるシェイクダウンテストを行った。おもな変更点はタイヤサイズを当初の設定サイズである235/85R16から、245/75R16へとサイズダウンしたこと。このサイズ変更によってタイヤ径を小さくし、トータルでのギヤ比を低くすることで、発進&加速時のトルクを稼ぐ。さらに今回のマシンはブレーキがマスターバッグレスとなっているため、タイヤ径を小さくすることで、少しでもブレーキのフィールアップできることをねらっている。また、ブレーキパッドもマスターバッグレスにマッチしたものに変更した。
明日8月8日には、車検とセレモニアルスタートが予定されている。毎年恒例のプロローグランは今年はキャンセルされた。
ボンネットまで浸かる川渡りも
難なくこなし、そのタフさを証明
8月9日。「ツーアンドフォー モータースポーツ」の『アウトランダーPHEV』は、いよいよアジアクロスカントリーラリーのスタートを切った。
本日の予定はチェンマイからメーホンソンまで205kmのリエゾンと途中176kmのSSであったが、SS前半の道で一般のトラックが転倒事故を起こし道路を閉鎖してしまったため、4輪車のSSは前半を省略して行われた。
本日のSSの最大の見せ場は幅20〜30m程度の川を渡るシーン。この川には細い吊り橋が架けられているが、四輪は川を渡る以外に方法がない。川まで到着した競技車は次々と川に入り渡っていったが、なかには一瞬浮き上がり、流されながらも渡るというシーンも見かけられた。『アウトランダーPHEV』は、ためらうことなく川に進入し、そのまま難なく川を渡り終えた。
EVということで周囲からは心配する様子もあったが、十分なテストを行っているだけに、その心配を物ともせずに川渡りを成功させた。この際、水深はボンネットまでが浸かるような深さであり、これはテストコースよりも厳しいシチュエーションだった。
LEG1を終えた成績は総合17位。明日の第2レグは364kmのリエゾンと132kmのSSと合計約500kmとなる大会最長の走行距離が予定されている。
フロントウインドウを損傷するも
自走でゴールに向かう
8月10日。『アウトランダーPHEV』はアジアクロスカントリーラリー2日目、LEG2を迎えた。
本日の第2レグはメーホンソンからメーソットまで、364kmのリエゾンと132kmのSSと合計約500kmとなる大会最長の走行距離となった。
LEG2のSSスタート地点は、タイムコントロールのスタート地点からわずか8kmと近いコース設定。いわば、走り出してすぐにSSとなるコースで、ドライバーは肩慣らしもないままいきなりの全開走行となるような状況だった。
『アウトランダーPHEV』はSS途中でコースアウトを喫し、フロントウインドウを損傷。SSを途中で離脱、整備された道を走行することを選び、スタート地点のチェンマイ経由でメーソットまで向かった。ホテルに着いたのは午前0時を回っていた。
SSはタイムアウトとなったが、本日の総合順位は22位。オーバーオールの成績は総合25位となった。明日の第3レグはメーソットからスコータイまで、190kmのリエゾンと181kmのSSとの合計400km弱となる走行が予定されている。
リペアを完了しLEG3を無事に完走
8月11日。「ツーアンドフォー モータースポーツ」の『アウトランダーPHEV』はアジアクロスカントリーラリー3日目、LEG3を迎えた。
『アウトランダーPHEV』のリペアが終了したのは、スタート直前となる午前5時30分だった。バンコクから到着したフロントウインドウとガラス専門の職人たちと、チームのメカニックの手によりウインドウとボディ外装のリペア、そして通常のメンテナンスが行われた。トラブルはボディまわりの損傷だけにとどまり、足まわりなどはチェックのみとなった。
本日の第3レグはメーソットからスコータイまで、190kmのリエゾンと181kmのSSとの合計400km弱の走行となった。前日のドライバーズブリーフィングで「LEG3はミスコースしやすいので注意するように」と指摘があったが、その指摘通り波乱含みの展開となった。
SS途中のチェックポイントにほぼ時間どおりに到着したのは2台のみで、『アウトランダーPHEV』を含む多くの競技車両がチェックポイントに遅れて到着。コースをはずれているバイクが多いとのことで、時間どおりに到着した2台も出発を2時間遅らせる事態となるほどの混乱ぶりだった。
そうしたなか、『アウトランダーPHEV』の青木孝次選手は総合9位でSS3を通過し、オーバーオールは25位から22位にアップ。明日の第4レグはスコータイからプレーまで、269kmのリエゾンと244kmのSSとの合計500km強となる走行が予定されている。
エアコン系統のトラブルで
SSを途中キャンセル
8月12日。「ツーアンドフォー モータースポーツ」の『アウトランダーPHEV』はアジアクロスカントリーラリー4日目、LEG4を迎えた。
第4レグはスコータイからプレーまで、269kmのリエゾンと244kmのSSとの合計500km強となる走行が予定されていたが、SS途中の川が増水したため、一部のコースで迂回措置がとられ若干距離が短くなった。変更後のSSの距離は195km。
『アウトランダーPHEV』はSSスタートまで順調に移動をこなしたが、SSでスタートしたとたんにエアコンが効かなくなるというトラブルが発生。『アウトランダーPHEV』はエアコンを使って駆動用バッテリーの冷却を行っていて、エアコンを正常に稼動させることがPHEVシステム全体にも大切な役割を担っている。競技車も同様で、バッテリーのワーニングランプが点灯し、フェールセーフが働きスピードが上がらなくなってしまった。エアコンの破損は一昨日のガラスが割れたときのクラッシュ時に、コンデンサータンクが押されてしまったことが原因だった。コンデンサータンクがほか部品の接触し、走行している間に徐々に擦れて穴が開き冷媒が漏れてしまったのだった。
この日のSSは途中で離脱し、ターマック路を使って宿泊先のホテルまで移動。ホテル近くの現地三菱ディーラーに駆け込んだ。現地ディーラーのメカニックがコンデンサータンクを調達し交換。無事にラリーに復帰できる状況となった。SS3の順位は総合22位、オーバーオールでの順位は総合21位。
明日の第5レグはプレーのホテルから出発、同じプレーのホテルに戻るというスケジュール。当初予定されていたSSは川の増水のために短縮され、全行程300km弱となる予定。
ペダルまわりまで冠水するも
電気系統に異常はなし
8月13日。『アウトランダーPHEV』はアジアクロスカントリーラリー5日目、LEG5を迎えた。
第5レグはプレーのホテルを出発し、ふたたびプレーに戻るコース。リエゾン、SSを合わせて380kmほどの距離が予定されていたが、増水のためにSS内に走行不可能の場所があることが判明し、走行距離は300km程度に短縮された。
このシーズンのタイは雨期であり、毎日雨が降る。今年は夜に雨が降り昼間は日が差すという天候で、走行中に雨はないもの、川の増水や路面のマッド化は避けられない。
『アウトランダーPHEV』は前日に発生していたエアコンの補修は完全に終わり、SSスタートを迎えた。スタート時点でも何の不具合もなく順調な滑り出しとなった。
この日のSSは道幅が非常に狭く、路面は前夜の雨の影響もあってツルツルでヌタヌタという状況。多くの競技車が路面のひどさに悩まされ、スタックするクルマも多発した。
『アウトランダーPHEV』が一番苦労したのは川渡りだった。LEG5における川は、初日よりも水深が深く一番深いところではドアノブ程度まであった。さらに流れも速く、水深と流れの速さがジャマをした。ロードマップでは川を渡って右に曲がるルートが提示されていたが、そのまま右に曲がることはできず、いったん左に回り込んでから右に曲がらないと進めない。それに気づいた青木選手は川の中でクルマをバックさせることになったが、ドアミラーは折りたたまれてしまい、勘でバックするしかなかった。運が味方したのは、クルマの前から川の流れが来ていたこと。水流を使ってクルマを後退させ、左側から回り込んでどうにか川を渡りきった。しかし、クルマのなかにはペダルが浸かるほどに水が浸入。電装系統への影響が懸念されたが、アジアクロスカントリーラリー3年目となる『アウトランダーPHEV』には不要な心配だった。SS5の成績は総合18位。最終日を前にしたオーバーオールの成績は、総合20位。
明日の第6レグはプレーのホテルから出発、このラリーがスタートした古都チェンマイへと戻る。SS45kmを含む、全行程280kmを予定。6日間、全行程約2400kmのラリーはいよいよゴールを迎える。
クラス優勝、
最終SSを3位で走行し
ポテンシャルの高さを証明
8月14日。「ツーアンドフォー モータースポーツ」の『アウトランダーPHEV』はアジアクロスカントリーラリー最終日となる6日目、LEG6を迎えた。
第6レグはプレーのホテルから出発、このラリーがスタートした古都チェンマイへと戻る。SS45kmを含む、全行程280kmを予定されていたが、SSのスタート地点を3km強、奥に進めたためSSの区間距離が若干短くなった。
今日のSS区間はヌルヌルでツルツルの路面が3割、ターマックが3割、残りの4割がマッド路面という状況。多くのドライバーが、第6レグのSSも含めて今年のSSはタフな路面が多かったと口をそろえて語った。
アウトランダーPHEVは昨日の夜のチェックで、エアコン関係の不具合が発見され、昨晩遅くまでかかって修復を行った。不具合は直ったように感じられたが、じつは完ぺきな状態ではなく、フェールセーフが作動しながらの走行となってしまったが、青木孝次選手は総合3位のSSタイム、それもトップに遅れること1分19秒のタイムをたたき出し、アウトランダーPHEVのポテンシャルの高さを証明した。
全行程約2400kmのラリーを終えて、「ツーアンドフォー モータースポーツ」の『アウトランダーPHEV』は、総合20位クラス1位でラリーを終えた。
3年間、3回のラリーで動力系統のトラブルは出ておらず、周辺装置の充実を図ればPHEVは、タイのような暑い国でも十分にその性能を発揮できることを実証。今後、さまざまなモータースポーツを通して、PHEVシステムはさらなる進化を遂げ、多くの人に求められるパワーユニットとなるだろう。
『アウトランダーPHEV』は、過酷なコースを40時間1分51秒で走り切り、3年連続の完走を果たした。
過酷な道路状況にも十分パフォーマンスを発揮するとともに、信頼性・耐久性及び走破性の高さを実証した。
レース後半では、冷却性能が落ちてしまうというトラブルにちょっと悩まされました。想定以上の過酷さでしたが、ダカールなどに行けばさらに過酷な環境が待っている。PHEVの将来を考えるなら、とてもためになるラリー参加だったでしょう。この3年間で得られたデータをしっかりと市販車に生かして欲しいと思います。