見上げるプロジェクト とても静かな場所

様々なジャンルのゲストを迎え,星空への「想い」にフォーカスを当てるインタビュー。

「あの空を、あの星を、あの感動を共有したい」100年後にもいいねと言われる星座を描く

PROFILEかがや

1968年生まれ、埼玉県出身。絵画制作をコンピューター上で行う「デジタルペインティング」の世界的先駆者。豊富な天文知識を活かして描いた「the Zodiac 12星座シリーズ」などがジグソーパズルとしてベストセラーとなっている。また、近年はプラネタリウム番組『銀河鉄道の夜』『富士の星暦』などの映像作品も手がける。

KAGAYA プラネタリウム映像クリエイター、CG作家

おもむろに慣れた手つきで大きな望遠鏡を庭にセットしはじめた。東京、こんな都心でも天体観測は十分に楽しめるという。

「3日に一度くらいはこうして星を眺めるんです。初めて月を見てからもう40年くらいが経ちますけど、今だにクレーターを見るとオオオッて少し興奮する」。

まるで少年のように笑う。

KAGAYAさんは物心がついた頃から科学が好きで、空に浮かぶ雲や星に興味があった。愛読書はもっぱら図鑑。

「小学生のとき夏休みの自由研究で、雲を題材に毎日その日にでた雲の写真を撮って、種類を調べたり、別の年には、88個ある星座を全て描き、全天星図を作ったこともあります。振り返ってみると、ホントにそのまんま大人になったようなものですね」。

中学生になると自分のカメラと望遠鏡を手に入れた。まだフィルムの時代だ。特殊な高感度フィルムで撮影し、家族が寝静まったころ家に戻ると、風呂場に目張りをして暗室代わりにして、朝まで現像作業を行っていた。それもすべて独学によるものだ。

KAGAYAさんが普段愛用している天体望遠鏡。

KAGAYAさんが普段愛用している天体望遠鏡。

「とにかく本を読んで調べて、工夫するのが好きなんですね。もちろん人に聞いたほうが早いことだってあるんですけど、試行錯誤していくうちにまだ世の中にないやり方に巡りあう可能性だってある。いまもぜんぜん変わっていなくて、一歩ずつクリアして、あと一歩この先どうすればいいって、そこを考えるのが一番楽しいし、やりがいがある」。

写真が好きで、絵を描くことが好き、その両方が好きなことは、子どものころからずっと変わらない。でもいずれも表現する手段の1つにすぎないと、とてもニュートラルな目線でそれぞれの良さを見ている。

「絵は自由度が高い。現実にとらわれることもない、白紙から作ることができる。写真は時間も忍耐も、ときには融通がきかなくて妥協も必要です。一方で偶然目の前にあらわれたものや、その光景をそのまま写し取ることができる。それは何物にも代えがたいですね」。

あの日見た天の川と朝焼けの感動を共有したい

高校に進学すると地学部に入った。同じように星にのめりこむ仲間との出会いは新たな刺激を与えてくれるきっかけとなる。あるとき部活動で福島県の山に登った。電車とバスを乗り継ぎ、テントをはって一晩中星を見上げていたという。

「初めてでした、そんな星空に出会ったのは。天の川がはっきりと見えて、次第に夜があけて、その時に見た朝焼けの感動はいまでも忘れられないですね」。

いつも地元で見上げていた空との違いに、好奇心はますます高まる。そして思った。この先、天文学を学んでいくのか、それとも絵やデザインの道に進むのか。

「自分が一番やりたいことは何なのかと考えたときに、学問を追求するというよりも、例えばあのとき見た光景やその感動を、たくさんの人と共有するとか、そういうことだと気づいたんです」。

イラストレーターを志し、グラフィックデザインの専門学校へと進む。イラストボードにアクリル絵の具やエアブラシを使った手法で描きだす独自の世界観は、このときすでに生み出されていた。卒業制作で手がけた全天星座絵図は高い評価を受け、製品化され星座ポスターのベストセラーとなった。

「宇宙や星座を僕のように正確な星の位置にギリシャ神話の絵をあてはめてリアルなタッチで描く人がそれまでいなかった。全天星図って、奇しくも小学校のときの自由研究と同じ題材なんです(笑)。でもそのおかげで、プロとしてやっていけると思った」。

この後、時代はデジタルへと移行していく。1990年代前半、マッキントッシュが100万円以上した、フォトショップもバージョン1.0がリリースされたばかりの頃だ。

「パソコンが高性能化してきて、これは絵が描けそうだなと。でもまだ知り合いでパソコンを使って絵を描いている人は皆無で、雑誌などで調べながらはじめてみた。手で描いていくと、色を重ねていく部分でどうしても濁りが出てしまう。それがデジタルだと、塗りたい色を塗りたい場所に思い通りに塗れる。ピュアな色が再現できる。誰も見たことのない絵を描きたいと思っていて、とにかくやってみようと」。

全天周プラネタリウム番組『銀河鉄道の夜』の大ヒット記念に作られた画集に収録されている作品「星野幻想」。

全天周プラネタリウム番組『銀河鉄道の夜』の大ヒット記念に作られた画集に収録されている作品「星野幻想」。

そして、KAGAYAさんはデジタルペインティングと呼ばれる手法の先駆者となった。コンピューターを使って絵を描くというと、とかくボタン1つで絵が描き上がるようなそういう誤解をする人も多い。しかし、それは手描きと同様に一筆ずつ描かれる。筆がデジタルペンに、キャンバスがモニターに置き換わっただけで、絵画制作のプロセスそのものは、頭に浮かぶ映像を手を使って現実のものとする、アナログなやり方そのままだ。

「デジタルとかアナログとか、道具は関係ないんです。頭の中にあるものをできるだけ完成度の高い、妥協しないかたちで表現するために必要な手法を選んでいるだけ」。

イラストレーターの枠にとどまらず、活動の範囲は年々拡大していく。映像制作も手がけるようになり、2006年には、全天周プラネタリウム番組『銀河鉄道の夜』を初公開。全国100館以上で上映され、国内での観覧者数は100万人を超えた。

富士山にのべ100日間通って作った、26分の映像作品

今年(2014年)は、『富士の星暦』という全天周プラネタリウム番組が公開されている。

「もともと番組を作ろうと思っていたわけではないんです。富士山にできる独特の雲があるんですけど、それをずっと追いかけていた。いろんな富士山の表情を撮影していくうちに、富士山にほれこんでしまって、こんなに素晴らしいものをみんなにもぜひ見せたいと思うようになって」。

3年間にわたってのべ100日間、車に機材を放り込んで富士山に通い続けて、撮影した写真は30万枚にも及ぶという。そして、そのほとんどすべてをKAGAYAさんは1人で行った。

「空撮は2回ほど行って、あとはラジコンヘリや小さなクレーンは、自分で操作しています。水中にカメラをいれてみたり、はじめは失敗するんです。でも、どうやったらうまくいくのか、そこを考えるのが面白いんですよね」。

映像作品をプラネタリウムドームに投影された実際の様子。その美しさに圧倒される。

映像作品をプラネタリウムドームに投影された実際の様子。その美しさに圧倒される。

プラネタリウム鑑賞にはちょうどいいという、わずか26分の作品に、それは凝縮されている。

「プラネタリウムに来るお客さんは幼稚園児からお年寄りまで本当に幅がうんと広い。みなさんに楽しんでもらえるように、学ぶところもありながら、きれいで、しかも飽きない、何かに偏りすぎない視点で、楽しめるように作ったつもりです」。

その美しさに圧倒される。その密度の濃さに瞬きすら惜しくなる。そして、きっともう一度見たくなる。

制作のすべてを担うKAGAYAさんは、同時進行で複数の作品作りに着手しおり、現在、来年完成予定のオーロラ映像の仕込みもはじまっている。これまでに8度もオーロラ観測に出かけてきたKAGAYAさんは、新作の完成のために今冬9度目の観測へアラスカに出発した。

「オーロラって実はすごく動きが速いものなんです。だからこれまで見てきたオーロラの映像はどれもぶれている。CGで再現したこともあるけど、やっぱり何かが足りない。肉眼で見たときのあのスピード感や躍動感をどうやったらとらえられるのか。最新のカメラを複数台使って露出をかえてトライすれば、イメージどおりの絵が撮れるんじゃないか。そう思ったらいてもたってもいられなくて(笑)」

オーロラは曇れば見えないし、晴れても見える確率は五分五分という。11日間という長期滞在の体制を整えて撮影に望み、初日以外は毎日オーロラが見えるという幸運に恵まれた。

「3日目には目標だった絵も撮れて、もういいんじゃないかと思うんだけど、ものすごいオーロラが毎晩でるもんだからやめられなくて。滞在中はへとへとになって撮り続けてましたね」。

次回作はアイスランドとアラスカの雄大な景色とオーロラの番組になるという。公開が待ち遠しい。

手段は何でもいい、100年後にもいいねと言われるものを

昨年KAGAYAさんが撮影した中秋の名月。約26,000リツイートされるなど話題を博した。

昨年KAGAYAさんが撮影した中秋の名月。約26,000リツイートされるなど話題を博した。

多忙な現在も、昔と変わらず天体観測を続けている。そして日々、天体に関する情報を美しい写真を添えて、ツイートする。いまやフォロワーの数は約8万人以上にものぼる。

「今日見える、いま見える、っていうリアルタイムな情報発信がツイッターの魅力です。それをきっかけに、『空を見上げるきっかけになりました』『感動しました』って声が寄せられるし、『あまり会話のなかった家族に話のきっかけがうまれた』とか、思いもよらぬ声が届くこともある。そうやって喜んでくれる人がいる限りは続けたいですね」。

おすすめの天体観測法について尋ねると、ぜひ一度は自身の高校時代のように街灯の影響のないところに出かけて空を見上げてほしいという。

「天の川の明るさや、流星群など、本当にこんなに流れていいのかってくらい、素敵な体験ができます。必需品は小さくてもよいので双眼鏡か望遠鏡と、いまとなっては、そんな場所へ行くための車でしょうね」。

KAGAYAさんが使っている大型の望遠鏡は、天体の動きに合わせて星を追尾することができるが、その電源となるバッテリーを携帯しなければならない。パソコンも使うし、時にはカメラの充電も必要になる。車載バッテリーから静かに電力供給が可能なハイブリットカーなら、そういった場面でも役に立つという。

「動物たちや植物が寝静まった時間に、山に入ったりすることもあるので、できるだけ邪魔はしたくない。無駄にアイドリングしないことも大事ですね」。

そしてKAGAYAさんは続ける。

「環境のことを考えると、車なんてない方がいいなんて極論になりがちですけど、現代においては車があって当たり前で、わざわざ便利なものを、やめてまで我慢する必要はないと思うんです。電灯を1つとっても、ローソクに戻しましょうって話ではなくて、人を感知したときだけ点灯するとか、技術を使ってスマートに節電していくのが正しいエコだと思うんです。みんなの満足度は減らさないで、いかに効率よくエネルギーを使うか、そういう意味でハイブリッドカーなどは、それの最たるものだと思いますね」。

話していると伝わってくる。KAGAYAさんは既成概念にまったく囚われていない。新しい技術を常に受け入れ、それを自分なりにアレンジしていく。いまあるベストな選択を模索し続ける探究心旺盛な方なのだ。

「表現手段はなんでもいいんです。ただ、時代に関係なくみんなが喜んでくれるもの。だからテーマは星や自然や普遍的なものを選んでいる。そして、50年後、100年後に見てもいいねって言われるものを作り続けていきたいですね」。

見上げた星空に想うこと

「星は消えないし、人間が消せるものでもありません。100年後も1000年後もきっと星は輝いている。でも、星と星を結んで動物や神様の姿を描き出した星座というものは、ギリシャ時代から受け継がれてきた文化です。人類がそれを継承していく心の余裕を持ちえることも大切だと思うのです」とKAGAYAさんはいいます。100年後にKAGAYAさんの作品が21世紀の星座の絵として、星空とともに鑑賞されていることを願います。

この星空が、百年後の未来も今と変わらず輝いていてほしい。

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