見上げるプロジェクト とても静かな場所

様々なジャンルのゲストを迎え,星空への「想い」にフォーカスを当てるインタビュー。

「星を描くために夜空を見上げます」 フルCG映画『はやぶさ』はこうして生まれた!

PROFILEこうさか・ひろみつ

1960年生まれ、埼玉県春日部市出身。映画監督、CGクリエーター、イラストレーター、プログラマーなどさまざまな分野で活躍。CG制作会社ライブの代表も務める。JAXAの小惑星探査機はやぶさの活動を描いた映画『HAYABUSA BACK TO THE EARTH』で数々の賞に輝く。

上坂浩光 映画監督、CGクリエイター

1969年7月16日、アメリカの宇宙船アポロ11号が月面に着陸。歴史上初めて人が月に降り立った瞬間だった。上坂少年が小学校4年生の頃だ。

「以前から星を見るのは好きだったけれど、これで俄然興味が湧いた。その後、近所の眼鏡屋がやっていた観望会で、はじめて望遠鏡で土星をのぞいた。光の点が土星のかたちをしている、驚愕でした」。

当時、世間を賑わせた火星大接近に加え、望遠鏡で土星をのぞいたことをきっかけに望遠鏡が欲しくなり、新聞配達まで始めたという。

「3~4ヶ月やったけど、それじゃぜんぜん足りなくて、店にこれを頭金にして月賦で売ってくださいって、小学生ながらに頼んだけどやっぱり無理で(笑)」。

約2年後に念願が叶う。中学の入学祝いに両親が望遠鏡をプレゼントしてくれた。その後、毎週土曜、リアカーに望遠鏡やカメラを積んで、天文仲間たちと、田んぼで夜通し星を眺めた。

那須にある上坂さんの別荘兼天文台「星居」。インターネットを介し、リモートでドームを開閉し星空を撮影している。そのシステムも上坂さん自身で手がけた。右の写真は実際に上坂さんが撮影したもの。

那須にある上坂さんの別荘兼天文台「星居」。インターネットを介し、リモートでドームを開閉し星空を撮影している。そのシステムも上坂さん自身で手がけた。右の写真は実際に上坂さんが撮影したもの。

「当時はまだ街明かりも少なくて、天の川も本当によく見えた。そして、いつかは自分の天文台をもちたい」。

そんな夢を持っていた。

2005年に那須に別荘を兼ねた天文台「星居(せいきょ)」が完成する。この名は設計を手がけた建築家の椎名英三氏がつけてくれたものだ。“星が居て、星を見る人が居る”そんな意味を込めたものだという。ちなみにそこで撮影された星の画像の一部が自身の天文台ホームページで公開されている。

天文と映像、有言実行が2つを重ね合わせた

天文好きである一方で絵を描くことが好きだった。

「絵が好きで、映画が好きで、中学3年のとき、『アルプスの少女ハイジ』を見て、将来はこうした映像に携わる仕事をしようと決めた」。

監督高畑勲氏、レイアウト宮崎駿氏が手がけたこのアニメ作品は当時大ヒットした。天文学者になるという選択肢と悩んだ末、映像制作系の会社に入る。しかし、根は星好きで、天文好き。ことあるごとに、そういうものが好きだと公言してきた。

「CMやゲームのムービー、科学者の研究発表資料などもういろいろ。それが人づてに伝わって、天文分野の仕事の依頼が自然と増えてきた」。

上坂さんが実際に制作を行っている作業デスク。

上坂さんが実際に制作を行っている作業デスク。

天文と映像、別々に分けて考えていたものが、この頃から重なりはじめた。

そして、さらにCGと出会う。

「実はこの映像業界に入ったときは、もともとは絵を書く、イラストレーターであり、アニメーターだったんです。その一方で天文だけでなく科学が好きなこともあって、まだ世に出始めたばかりのパーソナルコンピュータを趣味で使っていた。雑誌で3次元CGのアルゴリズムを知って、独学でプログラムを作ってみたら画面に絵がでた。ワイヤーフレームという線書きのもので、それを動かすと立体的に動く、これはすごいと」。

とにかく探求心がすごい。約30年前、まだ市販のCGソフトなどが存在しない頃の話しだ。それを見た当時の会社の社長も驚き、急遽ソフト開発のプロジェクトが立ち上げられたという。

「ブラウン管も解像度が低くて、プロッターという機械を使って動画の一枚一枚に線を書いて、それをリスフィルムという透明のセルに写して、アニメーションのようにコマ撮りで撮影してCGを作っていた。最初の作品はある企業の製品をワイヤーフレームで表現して、そういえば、それの背景も星空だった」。

つくづく星には縁があるようだ。そして運命的な出会いが訪れる。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の小惑星探査機はやぶさだ。

はやぶさほど愛された探査機なんて他にない

「いつも一緒に仕事しているプロダクションへJAXAからはやぶさのミッションを紹介する映像を作って欲しいという依頼があった。そのときに、プロデューサーが宇宙好きであること覚えていてくれて、声をかけてくれた。もちろん即答でYES。周囲に星が好きなんだと話をしていたおかげでチャンスをもらった」。

打ち合わせに訪れたJAXAは想像していたものとは少し違ったという。はやぶさのミッションもまだそれほど有名ではなく、宇宙探査の一つくらいに考えていた。

「はやぶさのチーム関係者は熱い人ばかりで。仕事じゃなく、人生をかけてやっているということが、がんがんに伝わってきた。ひきこまれていったというか、そこで感じた思いがいろいろあった」。

そしてできた作品が2007年に制作された『祈り』だ。

「『祈り』では感情移入とかはなく、あくまではやぶさのミッションをたんたんとわかりやすく描いたもの。最後のシーンではやぶさが地球に帰ってくる姿を作ったんですけど、その後ろ姿を見ていて、なんだか不思議なんですけど人格を感じた。そういう作品ではないはずなのに、なぜかそんな感情が芽生えた」。

この気持ちが、次作へ大きな原動力になったと話す。

「チーム関係者の思いや、そういうものも含めて描いてみたくなった。始めは単なる機械だと思っていたはやぶさが、生きているとしか思えなくなった。こんなに愛された探査機なんてほかにないと思う」。

こうして、フルドーム映像の映画『HAYABUSA BACK TO THE EARTH』が2009年に誕生する。

『HAYABUSA BACK TO THE EARTH』制作の際に上坂さんが実際に描いた絵コンテ。

『HAYABUSA BACK TO THE EARTH』制作の際に上坂さんが実際に描いた絵コンテ。

取材当時は、最新作『銀河鉄道999~赤い星ベテルギウス~いのちの輝き』の制作が佳境に入っていた(2014年1月より順次公開)。

番外編として描かれる新作ストーリーで、全体の世界観をCGで、登場するキャラクターはアニメーションによって表現している。松本零士氏監修、音楽は全編タケカワユキヒデ氏による作曲、そして監督が上坂さんだ。

少しだけ制作過程の映像を見せてもらったが、取材スタッフからは、ただただ感嘆の声があがるばかりだった。

機関車のCG表現、星空の立体感、もはや隔世の感がある。

何かあればいつも、星空を見上げます

「星居」へはご友人も連れて星を眺めに行くという上坂さん。実際に背中を地面につけ横になって星空を観察している。

「星居」へはご友人も連れて星を眺めに行くという上坂さん。実際に背中を地面につけ横になって星空を観察している。

『HAYABUSA BACK TO THE EARTH』では、科学技術映像祭で文部科学大臣賞など数々の賞を受賞した。

『HAYABUSA BACK TO THE EARTH』では、科学技術映像祭で文部科学大臣賞など数々の賞を受賞した。

「新作のフルドーム映像作品『銀河鉄道999』には、『星居』で撮った実際の星空の画像を取り込んで使用したりしています。やっぱりCGで宇宙を描く際にも本物をいかに見て、知っているかが大事。頭の中で考えたり、プラネタリウムで見るだけじゃだめ、フルドームだって表現しきれるわけじゃない。暗いとか明るいとかそれだけじゃなく、スケール感がぜんぜん違う。ふと星を見上げると、宇宙の広大さを非常に強く感じられる。だから、何かあればいつも星空を見るようにしています、じゃないと映像が嘘になるような気がして」。

これまででもっとも印象的だった星空を訊ねると、すばる望遠鏡のある、ハワイのマウナケア山頂で見た星空だという。

「星がまったく瞬かなくて、差がないくらいみんな明るい。目の前にあるオリオン座が、最初わからなかったくらい。あそこで高度4200mくらいですから、宇宙空間から見るときっとこんな感じだろうなって」。

天体観測の楽しみ方を聞いてみる。

「暗いところで、仰向けに背中を地面につけて横になる。そうすると自分の視野が全部空になる。で、ちょっとコツが必要だけど、天地を逆に想像する。宇宙を俯瞰している、漂っている自分をイメージすると、まったく違う視点で星が見える」。

さながら宇宙遊泳だ。さらにもう1つアドバイスしてくれた。

「一般的には星空を平面的に捉えていると思いますが、実際は距離感がぜんぜん違う。月は38万kmだし、惑星は数億から数十億kmのところにある。星雲と星座は数光年先にあり、アンドロメダ銀河などの系外銀河は何百万光年もの距離にある。それを知るだけで(星空に)奥行きが感じられる。日が暮れたときに月や金星、木星が並ぶ瞬間があって、あれが太陽系の公転面を示しているんだと想像してみると、もうまったく星の見方が変わります」。

我々は地球の上にいて、地球は宇宙に浮かんでいる。そのまわりには広大な宇宙空間が広がっている。また空間だけでなく、宇宙の誕生から130数億年もの間にさまざまな出来事が起き、我々はいま時間の最先端にいる。自分が何者なのか、どこから来て、どこへ行こうとしているのか。上坂さんが映像を通して伝えたいメッセージの根底には、こんな思いがあるという。

「昔は電気がなくて、毎晩夜になると星を見ていて、“宇宙の中の自分”というものを自然に感じていたんじゃないかと思うんです。いまは“社会にいる自分”が日常で、宇宙や自然を忘れがちでしょう」。

次の休日は“宇宙の中の自分”探し、いかがだろうか。

見上げた星空に想うこと

マウナケア山頂の星空に上坂さんは、背筋がぞくっとするほどの感動を覚えたそうです。そして帰路に、成田から乗った電車の窓から見上げたオリオン座の、そのあまりの違いに、ショックを受けたといいます。子どもの頃に見たあの天の川のように、本当は見えているはずのものが見えない。そんな身近な日常に対する気づきを作品を通して伝えられればと、上坂さんは穏やかに話されます。

この星空が、百年後の未来も今と変わらず輝いていてほしい。

オススメの記事

      とても静かな場所 Archive

        見上げるプロジェクトとは

        ふと星空を見上げれば、誰かのことを思ったり、
        地球の大きさに思いを馳せたり、これからの未来のことを考えたり...。
        太古の昔から瞬き続ける星空は、とても多くの想いを私たちに届けてくれます。

        そんな星空が、百年後の未来も今と変わらず輝いていてほしい。
        今よりもきれいな星空であってほしい。
        そんな願いをこめて、「見上げるプロジェクト」を始めます。

        このプロジェクトでは、Drive@earthの約束のもと、
        これからのクルマ・人・地球の百年に挑戦し続ける三菱自動車が、
        星空を見上げる人々の想い・体験をとおし、
        あなたと地球が対話するきっかけを作っていきます。

        今晩ちょっとだけ星空を見上げてみませんか?